ホラーの帝王スティーヴン・キングの小説が、またひとつ映画化された。その作品『ブギーマン』を任されたのは、『ズーム/見えない参加者』などインディーズのホラーを手がけてきたイギリス人若手監督ロブ・サヴェッジ。

「ありがたいことに、自分の小説が映画化されるにおいて、スティーヴンは原作に忠実であれと強要しない。僕らには多くの自由があった。とは言え、原作と同じフィーリングを持たせることは心がけたよ。僕も子供の頃、原作を読んで、すごく怖いと思ったのを覚えているから」

ロブ・サヴェッジ監督

 原作と違う部分のひとつは、姉妹の物語にしたこと。家の中で恐ろしいものを見るようになる子供は、原作では男の子だが、今回の映画では『オビ=ワン・ケノービ』で幼い頃のレイア姫役を務めたヴィヴィアン・ライラ・ブレア演じる少女になっている。やがて少女の姉(ソフィー・サッチャー)も同じものを見始めるも、父(クリス・メッシーナ)は信じてくれない。しかし、父にはまだ見えないだけで、それはたしかにいた。その不気味な何かは、母を失って悲しみにくれている彼女らを狙って現れたのである。

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 観客がその実体を見られるのは、映画も後半になってから。そこまではちらちらと見せつつ恐怖を高めていき、最後にドカンと現れるのだ。

「ブギーマンは、暗闇の中から見つめる目のような感じでデザインしている。映画の大半で、僕らは観客に想像させているけど、ついに姿を現すと、それはとんでもないものだ。僕は、ブギーマンに、時代がかった、原始的なルックを与えた。人が持つ恐怖そのものを象徴するような。この映画を観に来た人に『全然怖くなかったね』と絶対に言わせたくなかった。この映画が人々に新たな悪夢を与えることになれば素敵だ」

 ありきたりなホラー映画にしたくなかったサヴェッジは、撮影前、父親役のメッシーナに、オスカー受賞映画『普通の人々』を見て欲しいとお願いしたという。あの映画のように、悲しみに直面する家族の姿を丁寧に描きたかったからだ。その言葉に従い、メッシーナは、撮影中も『普通の人々』のシーンを常に繰り返し見たという。もちろんサヴェッジは、各国のホラー映画も参考にしている。日本のホラーから受けた影響も大きい。

「日本のホラーはたくさん見てきたが、とくに『リング』はインパクトが大きかったね。あの映画のラストは、それまでの人生で見た中で一番怖いものだった。実は、あそこのシーンをオマージュしている。脚本家に、あんな感じの終わりにしたいと言ったんだよ」

 つまり結末も原作とは違うが、完成作をキングは気に入ってくれた。

「『シャイニング』への不満を堂々と言ってきているように、スティーヴンは気に入らなければはっきりそう言う人。だから不安だったけれど、『すごく怖かった』と言ってくれた。それは僕にとって最高の褒め言葉だ」

 その恐怖をぜひ映画館で味わいたい。

Rob Savage/1992年、イギリス生まれ。17歳の時に製作・脚本・監督・撮影・編集を務めた『Strings』(2012)で長編デビュー。コロナ禍のロックダウン中、わずか12週間で完成させた『ズーム/見えない参加者』(2020)が話題に。他の監督作に『DASHCAM ダッシュカム』(2021)など。

INFORMATION

映画『ブギーマン』
公開中
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/boogeyman