モキュメンタリーの“グレー”な感じ
――『近畿地方のある場所について』は、実際に起こった話を作品にしたような模擬ドキュメンタリー、いわゆる“モキュメンタリー”と呼ばれる作品になっています。背筋さんはホラーの中でも特にモキュメンタリーがお好きなのでしょうか。
背筋 大好きですね。好きになったきっかけは映画『ノロイ』です。全編ドキュメンタリー風でリアリティがあったり、実在の人物が作品に登場したりして。頭ではフィクションだと分かっているのに、「実は本当にあった話なんじゃ……?」と疑ってしまうほどの衝撃作でした。そんなモキュメンタリーの“グレー”な感じがすごく好きなんです。そこから、他の作品にもハマっていきましたね。
そして、今回『近畿地方のある場所について』を書くにあたって、好きなモキュメンタリー映画や小説を思い浮かべたときに、そこにはプロの方々の技法や工夫が詰め込まれていることを思い知らされました。
――それは具体的にどんなものでしょう?
背筋 あくまで、イチ消費者としての私の視点でしかないのですが、私が好きな作品は必要以上に怖がらせる演出が少ないと思っています。だから、「乾いた感じ」を受ける印象が多いです。
映画ならたくさんのカメラを入れて撮影したり、小説なら情景描写をふんだんに盛り込んだりして雰囲気を高めたほうが、お話としての没入感は高まるのかもしれません。でも、そこをあえて排除することでリアリティが増すというか。怖がらせにきていないからこそ、怖い。そう思います。
ただ、怖い演出を排除しながら怖がらせるってすごく高度な技術ですよね。私も書きながら、その「乾いた感じ」を表現すべく一生懸命試行錯誤しました。
リアリティと自分ごと化のバランスをとった「近畿地方のある場所」
――今回の作品の舞台を「近畿地方のある場所」とぼんやりさせた理由はどこにあるのでしょうか?
背筋 たとえば、「大阪府淀川区のあるアパートの一室」など、具体的な場所を設定すればするほどイメージはしやすくなります。でも、「自分の身に起こりそうかどうか」の視点で見ると結果は変わってきます。その土地をイメージできる人は、そこで起こっている恐怖を“自分ごと化”できるけど、馴染みの薄い人からすると“ファンタジー”だと感じるはず。
ただ、場所をぼんやりさせすぎると、今度はリアリティがなくなってしまいます。私なりにリアリティと自分ごと化のバランスをとった結果が、「近畿地方のある場所」でした。
タイトルを無機質な印象にしたのは、先にお話しした、「乾いた感じ」を演出するための一環です。