保育士の夢については23歳だった2008年、チャイルドケアのライセンスを取り、けじめをつけた。その間にも仕事をがむしゃらにこなしていたが、彼女のなかでは“やらされてる感”が募っていく。それをごまかすため、自分は商品なのだと思い込もうとするほど気持ちは追い詰められていた。所属事務所の社長に手紙を書き、自分の思いを直訴したこともあったという。
そんな上戸が、演技が楽しいと思えるようになったのは、22歳でソフトバンクのCM「白戸家」シリーズに出始めたときだった。当初、CMのなかで自分と同じ「あや」という名前のキャラクターをどう演じればいいのか戸惑ったが、共演する樋口可南子が「自分らしく、でいいのよ」とアドバイスしてくれた。最初はそれがよくわからなかったものの、迷いながらも演じ続けるうち、《全て完璧にやろうとしなくていいのかも。もうちょっと力を抜けばいいんだ。それが自分らしさだ》と気づけ、少しずつ自由に演じられるようになったという(「美ST ONLINE」2023年3月25日配信)。
風俗嬢で喫煙者…転機となった役柄
さらに大きな転機となったのが、25歳のときにフジテレビ系の月9ドラマ『流れ星』(2010年)でヒロインを演じたことである。それまでは、ひとつの作品が終わったら、間髪を入れずに次の作品の台本を渡されて現場に行っていたのが、このとき初めて、事務所の社長から事前に企画書を見せられ、この役をやりたいかどうか訊かれた。それは風俗嬢で喫煙者という、少しやさぐれたイメージの役どころであった。CMなどでの明るいイメージとは離れた役に自分を選んでくれたのがうれしくて、絶対にやりたいと思ったという。
撮影に入ってからは、監督の宮本理江子と相手役の竹野内豊の3人で、芝居について議論することが多かった。自分の意見を言ってもいいという境遇も上戸には新鮮だった。こうして初めて自分で仕事を選び、自分の考えを出すという経験をしたことで、仕事に対する意識全般が変わっていく。《仕事に裁量をもたせてもらえたことで、ようやく自分の仕事に納得できるようになりましたね》と、のちに上戸は顧みている(『Hanako』前掲号)。
斎藤工演じる教師と恋に落ちる主婦を描いたドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系、2014年)への出演を決めたのも、作品ごとに観る人をいい意味で裏切りたいとの思いからだった。
もっとも、上戸はこのときもオファーを受けた当初は、自分にはできないと断っている。何しろ、彼女は以前よりことあるごとに、浮気や不倫など考えられないと公言していたからだ。しかし、監督の西谷弘からはそのことを逆手にとって「絶対に道ならぬ恋はしないイメージがある上戸さんだからこそ出てほしい」と説得され、出演を決めたという(『婦人公論』2017年6月13日号)。同作は社会現象を巻き起こし、2017年には映画化もされている。