1ページ目から読む
2/4ページ目

《自分としては、いきなりのステップアップで。まさかあんなにたくさんの方に見ていただけるとは。ジャイさんとはいつもこう、すごく高い階段があるんだけど、そこで手をぐいっと引っ張られて、ぴょんと飛ぶ感じ、ですね》(『日経エンタテインメント!』2017年4月号)

 こうした積年の信頼関係からすれば、上戸が『VIVANT』に出演していてもおかしくはなかったはずだが、ちょうど撮影時期に彼女は第3子を出産しており(夫であるEXILEのHIROとともに今年6月に報告)、たとえ出たくてもかなわなかっただろう。

©文藝春秋

 福澤監督がいまなお上戸を「直」と呼ぶのは、『金八先生』での彼女の演技のインパクトがあまりに強かったせいでもあるのではないか。

ADVERTISEMENT

つらかった撮影現場

 上戸によれば、直になりきるため、普段から眉間にしわを寄せていたので、親から怖いと言われるほどだった。撮影現場でも《感情も直に入り込んじゃってるから、いろんなことがすごくつらくなっちゃって。泣いちゃいけないシーンで泣いてしまったり、教室で起こるすべてのことをつらく感じたり…。金八先生が3Bのみんなに性同一性障害のことや手術の話をする回も気持ちがつらすぎて、ドライ(撮影の段取りの確認)から鼻水が垂れるくらい泣いちゃって、監督さんに“これ以上、この空気を吸わないほうがいい、外に出てなさい”って言われたこともありました》という(『ザテレビジョン別冊「3年B組金八先生」25周年記念メモリアル』KADOKAWA、2004年)。

ドラマ『高校教師』(2003年)では、余命半年の数学教師(藤木直人)と禁断の恋に落ちる女子高生を演じた。脚本は野島伸司

 上戸の役への没入ぶりは、『金八先生』で性別違和をとりあげることを強く希望した脚本家の小山内美江子をして、《鶴本直という役を演じられる資質を持った少女に会えなければ、この話は断念する以外はないと思っていたが、このあとに大ブレイクする上戸彩と出会えたことは大きかった》と言わしめた(小山内美江子『25年目の卒業 さようなら私の金八先生』講談社、2005年)。

 上戸自身もこのとき俳優として初めて達成感を抱いた。ただ、それがかえって、この役以上のことはできないと彼女に思わせ、『金八先生』が終わったら俳優をやめようと決めていたという。しかし、それを言い出す間もなく、一躍脚光を浴びた彼女は、このあとドラマに映画にCMと引っ切りなしに出演することになる。

軽い気持ちで応募した「国民的美少女コンテスト」

 そもそも彼女が子供のときからずっとなりたかったのは保育士だった。国民的美少女コンテストを受けたのは、友達がエキストラでテレビに映っているのを見て「いいなー」と言ったのを母が聞き、遊び半分で応募したのがきっかけにすぎない。俳優としてデビューしてからも、「お芝居=嘘をつく仕事」という感覚がぬぐえず、いつこの仕事をやめてもいいと思っていた。