「山口百恵伝説」に憧れていたが…
このように上戸は俳優として、ときに慎重になりながらも新たな挑戦を続けてきた。その一方で、引退をほのめかすような発言もたびたびしている。もともと昔から「山口百恵伝説」に憧れていたので、結婚したら女優をやめるつもりでいたという。だが、2012年に27歳で結婚するも、夫のHIROは彼女に仕事をしてほしいタイプだったので、その選択肢はなくなる。
じつは結婚の前年、『週刊文春』の巻頭グラビア「原色美女図鑑」に登場した上戸はずばり引退について質問されていた。それに対する彼女の回答は、《引退はそうですねぇ……子供に頼まれた時かな。(中略)子供に『お母さん仕事辞めて』なんて頼まれたら、『ごめんごめんお母さん仕事辞めるよ!』って(笑)》と、冗談とも本気ともつかないものであった(『週刊文春』2011年8月11・18日号)。
ただ、このあと実際に子供ができ、昨年改めて「原色美女図鑑」に登場したときには、《娘が『もうちょっとテレビに出たら』って言う時があるんです。『ママいなくていいの?』『いてほしいけど、仕事したら』。私の親は共働きで、自分は[引用者注:子供の]側にいてあげたいなと思ってたけど、べったりくっついてる必要ないんだなと》気づいたと話しており(『週刊文春』2022年1月20日号)、どうやら子供に頼まれての引退はなさそうだ。
子供をあいついで儲けてからは、子育てを最優先しながら仕事を続けている。今年は出演映画として2月公開の『シャイロックの子供たち』(本木克英監督)に続き、『沈黙の艦隊』(吉野耕平監督)の公開が今月29日に控える。前者の原作は『半沢直樹』と同じく池井戸潤の小説だが、上戸が演じたのは半沢花とくらべると地味で生活感の漂う銀行員で、やはりこれまでのイメージとはちょっと違った役柄だった。
「『金八先生』くらい没頭できる役とまた出会いたい」
『シャイロックの子供たち』の公開時には各媒体でインタビューに応えた。ある記事では、《挑戦的な役も演じたいと思う一方で、子育て中なので、セリフを覚える時間は確保できるかとか、そういうことの狭間で戦っています》と近況を明かした(『日経WOMAN』2023年4月号)。
そうかと思えば、《子どもを預ける安心感も変わってきましたし、生活リズムも整ってきたので、『金八先生』くらい没頭できる役とまた出会いたいです》と抱負を述べていたりする(『SPA!』2023年2月21・28日号)。いまなお、過去の出演作として『金八先生』を挙げるあたり、鶴本直という役がいかに上戸にとって特別なものであるかがうかがえる。
冒頭でとりあげた『VIVANT』については早くも続編が検討されているともささやかれている。もし、それが実現すれば、上戸の出演はおおいにありえるのではないか。たとえそうでなくとも、俳優としても人間としても円熟味を帯びつつある彼女が、再び福澤監督と組んでつくった作品はぜひ見てみたい。