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「寝ていたら顔の上をゴキブリが歩く」母親に「汚部屋そだちを強いられた」東大卒・女性漫画家の不幸

「寝ていたら顔の上をゴキブリが歩く」母親に「汚部屋そだちを強いられた」東大卒・女性漫画家の不幸

ハミ山クリニカインタビュー #1

2023/09/18

genre : ライフ, 社会

note

 汚部屋そだちの後遺症は、片付けの苦手さだけではない。汚部屋暮らしで心の余裕がないことから、その日を生き延びるための場当たり的な行動をとっていたことも、未だ影響しているそうだ。

「炊飯器が行方不明になりました」

「昔、実家で炊飯器が行方不明になりました。多分ゴミの地層に埋もれたんでしょうね。しかしそこで炊飯器を買おうとはならず、それから何年間も、サトウのごはんを食べ続けていました。結果的にすごくお金もかかるし、炊飯器買ったほうが早いし経済的。

 でも1日1日をとにかくやり過ごしていくのに精いっぱいで、探したり買ったりする発想にたどり着かない。場当たり的な行動しか、できなくなっていました」

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思い出とゴミにあふれた実家(画像:『なんで私が不倫の子』より) 

 当時のマインドは、今も少し残る。たとえば「社内履き」にしているパンプスの底が剥がれたときのことだ。通常なら修理するか捨てるところを、セロハンテープでとめてしばらく履き続けていたハミ山さん。

「自分としては『もったいないから買わない』とか『使えるから使う』などの明確な意思があるわけでもなく、とりあえず使えるからテープで止めているだけの話なんです。でも多分、普通の会社員は壊れた靴をテープでとめて会社の中で履かない。時間や、靴を買い替えるお金がないわけじゃないのに、いまだに場当たり的な行動をしてしまいます」

 人はすべての行動が理路整然としているわけではなく、多かれ少なかれ誰にでもちぐはぐさはあるだろう。ところがハミ山さんの場合は、大分極端なようだ。

「今思うと、私も母も健康に関する意識もおかしかった。ゴミの山の上に寝て、室内の温度は外気と一緒。水回りは機能せず、部屋は靴で入る。寝ていたら顔の上をゴキブリが歩くし、台所を歩けばハエの大群が顔にバンバン当たる。ホコリもすごい。食べ残しもそのへんに転がっている。

 なのに“健康にいい”という理由で、青汁を飲んだりヨガをやったりしていました。そもそも、自分たちが不健康な環境にいる自覚がありませんでした。小学校くらいまでは普通の生活をしていたはずなのに、その後の汚部屋暮らしで常識をすっかり忘れてしまった。今でも家庭内の常識を知らな過ぎるのを、度々自覚します」

 漫画でも度々描かれるのが、一般常識に戸惑う心の動きだ。

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