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「寝ていたら顔の上をゴキブリが歩く」母親に「汚部屋そだちを強いられた」東大卒・女性漫画家の不幸

「寝ていたら顔の上をゴキブリが歩く」母親に「汚部屋そだちを強いられた」東大卒・女性漫画家の不幸

ハミ山クリニカインタビュー #1

2023/09/18

genre : ライフ, 社会

note

「まわりを見ながら常識を身につけようとするけれど、参考にした人が正しいとは限らない。すると、習得したつもりの常識が覆ってしまうということが、度々あるんですよね。自分のやることが正しいかどうかわからなくて自信がないから、何もできなくなってしまう時もあります」

 例えば「トイレのスリッパ」。あるとき知人に「トイレではスリッパをはくのが常識だ」と言われ、「今まで自分はそんなことも知らずにペタペタと素足でトイレに入っていた。物を知らなくて恥ずかしい」「100%自分が変」と思ってしまったという。

世間の価値観とのズレを感じることも…(画像:『なんで私が不倫の子』より)

「でも本当は、全人類がトイレでスリッパをはくわけではない。会社勤めをするようになってから“普通の人は床にものを置かないんだ”と思ったけど、逆にビジネス書には“鞄を机の上におかない、床に置くべし”と書いてあったりする。最近ではコロナ禍で、衛生面からまた意識が変わった可能性もありますよね。

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 そのように常識はその場その場で変化して、それを自分で判別していかないといけないのですが、私は常識が成立していない空間で育ったこともあり、信頼できる判断基準が自分の中に存在しない。すると常に自分が間違ってると思い、相手の言う『常識』を100%信じてしまう。そしてまた違う意見に遭遇しては、うろたえてしまう」

実家を汚部屋にしてしまった「母の心理」

 汚部屋だった実家について今思うことは、母の苦労や生きづらさだ。絶縁して距離を置き、時を経て、自分自身も親になった今、母の立場で心情を想像することができるようになったという。

「母の挫折や、母自身の実家との確執。父が正式な家庭を持ち、母と不倫関係のまま私を育てていたこと。さまざまな理由から、母はゴミを自分で片付ける心の力も体力も失っていたのでしょう。

 まったく同じ服を2枚買ってきたりすることがたびたびありました。好きなバンドのTシャツとかならまだわかりますが、普通の安物の服。お得!と思うと、過剰に買いこんだり。喪失経験から、どんどん自分の所有物にしておかないと怖いという気持ちに加え、楽しかった日々の思い出を手放す怖さ、手に入れたものがなくなる恐怖心もあったと思います」

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