洋服、家具、家電もすべて使用できない状態に
「カビ対策として冷蔵庫の電源を切って出国したのですが、何も意味がなかったですね(笑)。部屋中がカビだらけでした。マスクをしていても悪臭がひどく、長時間の滞在は困難。母は『もう思い出したくもない』と話しています」
クローゼットの中にあった洋服や家具、家電もすべて使用できない状態に。そこで急遽、管理会社が用意してくれた部屋に一時的に避難。留学先から持ち帰ってきたトランクひとつでの生活がスタートしたという。
「元の家の大家さんは、お見舞金として10万円に加えて新居の初期費用も払ってくれて、上の部屋に住んでいた人からはお詫びの品としてタオルセットをもらいました。タオルなどの生活用品もすべて使えなくなっていたので助かりましたが、漏水事故のお詫びにタオルをもらうなんて、あまりに皮肉だなと思いました」
他の住戸で起きた水漏れの影響を受けた人は、その被害内容をまとめて、加害者に請求する。畑中さんは母親と一緒に、使えなくなった物品とその値段をリストアップする作業に追われた。
被害総額は200万円
「損害を一つひとつ記入していったら、総額が200万円近くになってしまったんです。この金額を上の階の人に払わせるのは酷かも、と母と話し合い、少しだけ請求金額を少なくしました。でも、あとになって当時加害者が加入していた火災保険で全額補償できたと知り、今は『全部請求すればよかった』と後悔しています(笑)。
金銭面の負担がなかったのは不幸中の幸いでしたが、上京するときに持ってきた高校の卒業アルバムにもカビのニオイがついてしまったのは、とてもショックでした……」
思い出ばかりは保険ではどうにもできない。何度か卒業アルバムの脱臭を試みたものの、やはりニオイは残ってしまったという。失ったものもあったが「上の階の人も災難ですよね」と、畑中さんは話す。
「もし、私が部屋に住んでいれば、初期の段階で漏水に気づけたはずなのに、誰もいなかったために発覚が遅れてしまったんですよね。この経験から、誰しもが加害者になりうるという意識を持つようになりました。もしも部屋の排水口が詰まったら、自力で直そうとせず、絶対に業者を呼びます」
畑中さんが言うように、たとえ故意でなくとも、ほかの入居者に迷惑をかける可能性がある。とくに、居住スペースが隣接している集合住宅で暮らしている人は、心に留めておいたほうがよさそうだ。