「つらかったら、いつでも相談してください」

 昨今、人権意識の高まりやコンプライアンス強化の流れを受け、職場やネット上で、こうした相談窓口の掲示がよく目につくようになった。ただ、そう言われれば言われるほど、口をつぐんでしまった経験は誰しも一度はあるだろう。生きづらさがまん延しつつある時代に、なぜ私たちは、素直につらさを吐露できないのだろうか?

 X(旧Twitter)で56万人がフォローする作家のもちぎ氏は、「何でも言ってと言われても、つらいと誰かに伝えること自体につらさがある」と語る。かといって、一人で抱え続ければ、潰れてしまうかもしれない。では、どうすればいいのか? もちぎ氏の最新作『つらいと誰かにいうことが一番つらいから』(扶桑社)から一部公開しつつ、考えてみたい。

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つらさに正解なんてないけれど

 もちぎ氏は幼少期に父親が自死し、母親とも確執を抱え、ゲイ風俗で働きながら大学に進学。しかし、就職先でゲイであることを理由に退職を余儀なくされ、鬱病を患って自殺未遂をしたこともある。以来、「生きづらさ」をテーマに漫画とエッセイを書き続け、SNSを通じて相談が寄せられることも多いという。

「本当に、いろんなつらさが世の中にはあります。たとえば、いじめ、DV、パワハラ、セクハラ、性加害といった文字だけを見ると、他人は『なんとなくこんな感じ』と固定観念で受け止めがちだと思うんです。ですが、当事者の抱えるつらさは第三者が勝手に型に嵌めてしまえるようなものじゃないし、そもそも要素が複雑に絡み合って、明確に言語化できないことのほうが多かったりします。

さまざまな話を聞く中で気づいた、ある“共通点”

 さらに言えば、つらさのすべてを言葉にできるわけでもない。だから結局、相談を聞いてこちらが言えることなんて、ほんのわずかです。とてもじゃないけれど正解なんて示せないし、何が正解かもわからないですから。でも……」

 もちぎ氏は、さまざまな話を聞く中で、ある共通点に気がついたという。

「当たり前ですが、相談者本人が一番つらさについて考えているんです。悩むというのは、それだけ真剣につらさに向き合っているということ。でも、一人で抱えるのはやっぱりつらくて、誰かに聞いてほしい。そう思って言葉にするとき、そこにはかすかであっても必ず本人の生きようとする力が宿っています。どんなに自暴自棄に見えても、絶望の淵に立っているように見えても、誰かに伝えるという時点で、奥底には生きる力が脈打っているんです」