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 すると翌日、岸田首相は国葬をおこなうことを発表した。経緯は次になる。安倍氏が死去した数日後、首相は安倍氏の国葬を検討するよう、周辺に指示した。ただ、国葬を定めた法律はない。全額国費でまかなうことに、政府内には「行政訴訟のリスクがある」との慎重論もあった(朝日新聞デジタル2022年7月22日)。

《そこへ、内閣法制局からの報告が届く。》(同前)

 内閣府設置法を理由に、政府単独による国の儀式としてなら閣議決定だけで国葬も可能という内容だった。岸田首相は国会での議論を飛ばせることになり、「国葬儀」と言い始めた。ここは押さえておきたい流れだ。そして同時進行で話題が大きくなったのが旧統一教会問題だった。安倍氏との関わりが濃かったことが明らかになるにつれ、国葬論議も過熱していく。

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岸田首相が語った「国葬の理由」

 岸田首相は8月31日の記者会見で、国会で説明することをようやく表明した。国葬の理由については「弔問外交」の意義を主張し「日本国として礼節を持って応えることが必要だ」と強調した。それでいうと次の質問が面白かった。

《本紙は、国葬ではなく内閣・自民党合同葬だった過去の元首相の葬儀にも現職の米大統領ら多数の要人が来ていることを指摘して「当時は国際儀礼、礼節を欠いていたとの認識か」とただしたが、首相は回答しなかった。》(東京新聞WEB8月31日)

©文藝春秋

 調べてみると3年前に開かれた中曽根康弘氏の内閣・自民党の合同葬でも「外国の要人らが献花を行った」(産経新聞2020年10月17日)とある。菅義偉首相(当時)による合同葬という対応は失礼だったのだろうか。2000年、小渕恵三氏の合同葬ではクリントン米大統領や金大中韓国大統領が参列していた。当時の森喜朗首相は礼節を欠いていたのだろうか? たしかに森喜朗は数多くの失礼をしてきたかもしれないが、この時の対応はそうだとは思えない。

 弔問外交についてわかりやすく指摘したのが、毎日新聞のコラム『井上寿一の近代史の扉』(2022年9月17日)だ。弔問外交の良い点は、2国間で緊張関係にあっても一時的に棚上げして接触することができるメリットを書いていた。

《この観点に立つと、もっとも重要な弔問外交の相手国はロシアのはずである。しかしプーチン大統領がいち早く欠席を表明したことで、どうにもならなくなった。ロシアのつぎは中国だろう。》(井上寿一学習院大教授)