「日本で生活していた人はマナーもいいけど…」
前出記者は言う。
「これまでは中国にはやられるだけやられてきましたが、対中貿易でも中国の割合は低くなっていますし、韓国とていつまでも小国ではない。今回の与党代表の発言の背景にも、中国のケイ海明駐韓大使が米国寄りの韓国外交を批判したことが影響しています」
一方で、朝鮮族の人々は韓国にとって欠かせない労働力にもなっている。工事現場や工場などで働く人が多く、女性は介護人や家政婦として労働を担っている。特に介護職は80%を朝鮮族が占めるといわれるほど大きな存在となっている。
そんな朝鮮族の人々の参政権や健保を制限しようとする与党の動きに対して、複数の在韓朝鮮族団体が「参政権、健康保険制限は差別」と記者会見を開いた。
印象的だったのは「朝鮮族は同胞なのに、なぜ在中同胞と呼ばないのか」という訴えだ。確かにアメリカにいる韓国人は在米同胞、日本にいる韓国人は在日同胞と呼ばれるが、中国にいる韓国人を中国同胞や在中同胞と呼ぶのはあまり聞いたことがない。みな「朝鮮族」だ。
大林洞に30年近く住む韓国人はこんなことを言っていた。
「同胞なんですけど、親近感がわかないっていうか。在米同胞や在日同胞はマナーもいいけど、中国から来た朝鮮族は生活文化がわたしたちとは違う。特に移住が増えたばかりの2000年代は酷かった。通りにゴミをポイポイ捨てるし、昔は食堂で喧嘩するどころか店の前で乱闘したりもしていて、騒々しかった。そんな雰囲気に耐えられなくて、このあたりに住んでいた韓国人の多くが別の地域に引っ越していきました。今はずいぶん治安も回復したのですが、一度できた偏見はなかなか払われるのが難しい」
与党代表の演説は、来年の総選挙に向けて反中感情が強いZ世代の票を取り込もうとしたものと言われている。それでも、人権に敏感なはずの韓国社会で、与党代表の演説やそれに反論した朝鮮族の団体の記者会見がいずれも大きなイシューにならなかったことは、今の韓国の反中の空気をよく表している。