「人を……人と思っていない」
「あんな卑劣なやり方の人間がいるなんて思わなかった」
数々の凶悪犯を相手にしてきた刑事たちが言葉を詰まらせて証言する。ドキュメンタリー作品『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』(ネットフリックスで配信中)の1コマだ。2000年に起きた英国人ルーシー・ブラックマンさんの失踪事件は当時、彼女の家族が何度も来日し情報提供を呼びかけ、連日テレビでも報道された。本作は混迷した捜査と事件解決までの経緯を刑事たちの証言をもとに余す所なく描いている。
失踪から100日が過ぎて逮捕された容疑者宅からは、女性を薬物で昏睡させ陵辱する模様を撮影した大量のビデオテープが発見された。被害者は200人以上にのぼる。
「朝から晩までビデオを見せられて精神的におかしくなった人たち、何人もいるって」
証拠品のビデオを分析する警察官も見るに堪えない内容だったという。この事件の猟奇性、異常性はこれまでに数々のノンフィクション本でも伝えられてきたが、実際に捜査にあたった警視庁捜査一課の刑事たちが語る言葉は生々しく、迫真に満ちている。
「警察35年やってきて初めてですね……頑なに……」
被疑者写真すら撮らせない容疑者。事件への関与も否認を貫き、捜査は難航した。
「自供が無くて遺体を出すのって……できないでしょう」
遺体捜索の期限は1週間。五里霧中の状態で、あっという間に捜索最終日を迎えた。容疑者が女性を連れ込んでいたリゾートマンション近くの海岸の洞窟を当たってみることにした。
「勘でやってみようかなと」
ここで奇跡が起きる。刑事たちの執念と事件解決を願う関係者の思いが通じ、ルーシーさんの遺体が発見されたのだ。
「たぶん(ルーシーさんが)呼んでくれたんじゃないかなと」
当時の捜査官は20年以上を経た今も遺体発見現場を訪れ、花を手向けている。
INFORMATION
『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』
https://www.netflix.com/jp/title/81452288