今年3月、イギリス公共放送BBCは故ジャニー喜多川氏の性加害問題を追及する番組を放送した。それを機に日本でもこの問題が大きく取り上げられることとなった。この件をBBCが報じた背景には、過去に同局と縁深い人物が犯した同様の事件を長年放置し、追及してこなかったことへの悔恨と深い反省があった。

 故ジミー・サビルはかつて英国では知らぬ者がいない特別な存在だった。墓石には数々の輝かしい肩書きが刻まれた。

「慈善家、司会者、DJ……」

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 BBCで40年以上放送された長寿音楽番組や少年少女の夢を叶える高視聴率番組で司会を務めた。しかし、その裏で未成年者への性的虐待や強姦を常習的に繰り返していた。被害者は500人以上にものぼる。国民的人気者から一転、今や口にするのも憚られる男の“表と裏”を2部構成で描いたドキュメンタリーが『ジミー・サビル:人気司会者の別の顔』(ネットフリックスで配信中)だ。第1部では英国民がよく知るジミーの“表の顔”を膨大な映像や本人のインタビュー音声で振り返る。奇抜なファッションと奔放な言動で大衆を魅了し、行く先々で大歓迎を受け、ファンとも気さくに話す好人物だ。芸能活動以外に毎週、病院でボランティア活動に励み、巨額の寄付金集めにも尽力した。

「キリストとサンタクロースを掛け合わせた存在だった」

©佐々木健一

 英国王室や“鉄の女”サッチャー首相(当時)とも親密な関係を築き、90年にはナイトの爵位を受けた。だが、裏の顔が暴かれた今、見返すと彼の言動は隠蔽や幻惑、後ろめたさ、身勝手な贖罪意識によって塗り固められたものにしか見えないのだ。

「(おぞましい犯罪の)全ての手がかりはすぐそこにあった」

 約半世紀にわたり英国民が目にしてきた彼の映像が戦慄の光景となって蘇る。疑惑の報道が何度となく潰され、見過ごされてきた経緯も明らかとなる。一連の流れがとても他人事とは思えない一作だ。

INFORMATION

『ジミー・サビル:人気司会者の別の顔』
https://www.netflix.com/jp/title/81520549