純国産で海外ドラマと比肩しうる作品がついに誕生した。柳楽優弥主演の『ガンニバル』(ディズニー+で配信中)だ。累計200万部超の二宮正明による原作漫画を基に『ドライブ・マイ・カー』を手がけた大江崇允が脚本を担当。演出には話題作『岬の兄妹』『さがす』で注目の片山慎三など実力派の映画監督が名を連ねる。
物語は柳楽優弥演じる駐在所の巡査、阿川大悟が山深い限界集落、供花(くげ)村に赴任する場面から始まる。村人たちが笑顔で出迎える。絵に描いたようなのどかな田舎の村だが、どこか気味が悪い。ふと駐在所に併設された民家の柱を見るとそこには失踪した前任の巡査が刻んだと思しき文字が。
「ニゲロ」
それは警告だった。この村は恐ろしい秘密を隠している。それはどうやら「食人」の慣習らしい。駐在の阿川は村の暗部へと探りを入れてゆく。
本作が秀逸なのは衝撃的な食人俗だけでなく、日本のムラ社会に蔓延る陰湿な空気を描いている点だ。ヨソ者の阿川一家は常に監視され、プライベートも筒抜け。勝手な行動は和を乱すとして許されず、従わなければ村八分に。日本人なら誰しも感じたことのある組織や集団での同調圧力だ。
しかし、本作の面白さをさらに押し上げているのが主人公・阿川の人物像だ。彼はこうした日本的同調圧力に全く屈しない異様なメンタル強者。村の顔役に咎められても、
「チッ、面倒くせぇ」
とまるで10代の不良のような態度を取る。多勢に無勢もお構いなし。単身、村を牛耳る一族の屋敷へ乗り込む。幼い娘に作文で「パパは暴力警官です」と書かれても、
「天才じゃね? この文章力」
と一笑に付し、全く意に介さない。彼は決して正義漢ではなく、頭のネジが外れたアンチヒーローだ。そんな男を柳楽優弥が全身から迸る狂気で演じきる。日本社会をシニカルに描き、価値観を揺さぶる日本発の堂々たる世界配信ドラマである。
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