今、最も評価の高いドラマと言えば『メディア王~華麗なる一族~』(U-NEXTで配信中)が筆頭に挙げられるだろう。名作ひしめく米国ドラマ界の最高栄誉、プライムタイム・エミー賞のドラマ・シリーズ部門で作品賞を立て続けに受賞した(2020年、2022年)。『ザ・クラウン』、『ベター・コール・ソウル』といった名作を抑えての堂々たる栄誉である。

 本作の何がそれほど素晴らしいのか。撮影や編集、美術、役者の演技など全て一級品だが、白眉と言えるのはやはり「脚本」だろう。物語は冒頭、意表を突いて始まる。

「俺は……どこにいるんだ?」

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 暗闇の中、肥えた老人が彷徨い小便をする。だが、そこはトイレではなく邸宅の廊下。粗相したこの老人が実は世界的な巨大メディア企業のカリスマ経営者ローガン・ロイだ。

 このドラマの原題は『サクセッション』(継承)。彼が一代で築いたメディア帝国を4人の子の誰が継ぐかを軸に話が展開する。だが、物語の核“メディア王”ローガンが全く腹の底が見えない人物なのだ。冒頭の失禁シーンから察するに高齢で耄碌しているのかと思えば、強かに周囲を欺き実の息子から権力を奪い返す。言動がフェイクなのか、はたまた真実なのか、老練な経営者に視聴者も煙に巻かれる。

©佐々木健一

 これは所謂「信頼できない語り手」と呼ばれる手法だが、本作は物語の中心に最も信用ならない男を据えた。それ故、観客は常に想像力を掻き立てられ、突如ローガンが病に倒れても仮病ではないかと疑い、息子や娘を窮地に追い込んでも帝王学を学ばせるための試練かと妄想を膨らませながら見る。登場人物の台詞や行動を鵜呑みにさせない見事な脚本だ。

 加えて、観客の想像の斜め上を行く「まさか!」の事態も起こる。まさに人生は予測不能の連続で、偶然が運命を左右する。終始、全く油断ならない現代ドラマ最高峰のストーリーテリングである。

INFORMATION

『メディア王~華麗なる一族~』
https://video.unext.jp/title/SID0057596