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借金まみれ、ルーズな店員、怒号と罵声が飛び交う厨房…一流シェフは「自殺した兄が遺した店」を再建できるか

2023/01/03
 

 店構えはお世辞にも褒められないが、料理の味は一級品。そんな“きたな美味い店”のような至高のドラマをご賞味いただきたい。なにせ邦題がヒドいのだ。『一流シェフのファミリーレストラン』(ディズニープラスで配信中)。いかにも客が素通りしそうな凡庸なタイトルだ。原題は『THE BEAR』。「熊? これじゃ日本の客に伝わらない」と分かりやすさ優先で付けられたのか。だが、邦題から連想する“ほのぼの系料理ドラマ”という印象は衝撃と共に本編開始からわずか数秒で裏切られる。

 舞台は米国シカゴの薄汚れたイタリア風ビーフ・サンドイッチ店。熊に襲われる悪夢から目覚めた主人公のシェフ、カーミーは慌てて開店準備に取りかかる。ここから怒濤の厨房シーンが始まる。超ハイテンポでシズル感たっぷりの料理のクローズアップを重ね、怒号と罵声が飛び交い、不協和音が充満する厨房の渦へ観客を放り込む。トラブルも続発し、まるで“戦場”にいるような臨場感に包まれる。

©佐々木健一

 カーミーはNYの有名レストランで働く将来有望なシェフだったが、自殺した兄が遺した店を継ぐため故郷へ戻った。店は借金まみれで店員の働き方はルーズ。無秩序で衛生状態も最悪だ。その有様に彼は声を荒げ罵る。だが、その振る舞いはかつて自分が上司の料理長から受けた“言葉による暴力”そのものだった。衝突と失敗を繰り返し、彼は自身の心に巣くう“猛獣”と向き合っていく。本作は店の再建を通してハラスメントやメンタルヘルス、チームマネジメントなど現代社会が抱える課題を浮き彫りにする。

 各話の演出にもスパイスが加えられる。圧巻は第7話。混乱の極みに達する厨房を約17分間、ワンカットで見せきるのだ。途切れない巧みなカメラワークと役者の熱演による現場の緊迫感が半端ない。

 1話約30分で全8話、イッキ見必至の極上メニュー。さぁ、どうぞ召し上がれ。

『一流シェフのファミリーレストラン』
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/the-bear/52m6nx7HoP5F

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