近年は実話を基にした映画が多いが、内容は良くも悪くも脚色されている場合が多い。だが稀にほぼ事実そのままに信じがたい物語が展開する作品がある。Amazonプライムビデオのオリジナル作品『13人の命』はまさに“奇跡を超えた実話”である。
2018年にタイの洞窟にサッカーチームの少年12人とコーチが閉じ込められた事件を覚えているだろう。ご存じの通り、遭難発生から18日目、13人全員が無事救出された。結末は誰もが知っている。だがあの時、救助する側がどんな心境に置かれていたのか、多くの人は知らない。
映画の主人公は実際に救助にあたった世界屈指の洞窟ダイバー、英国人のリチャード・スタントンとジョン・ヴォランセン。遭難から10日目、タイ海軍の精鋭ダイバーも到達できなかった洞窟の奥で、彼らは13人の無事を確認した。奇跡の発見に歓喜の輪が広がるが2人の表情は浮かない。リチャードが声を荒げる。
「子供たちは(洞窟から)出てこられない! ……絶対に」
彼らがいたのは入口から2.5キロメートル、熟練ダイバーが6時間以上も這うように潜り続けなければ行けない場所だ。雨期に入れば洞窟内部も浸水する。救助は不可能で、見殺し以外に道はない。
誰もが諦めかけた時、リチャードが奇策を講ずる。13人に麻酔を打ち“荷物”として水中を運ぶ。窒息死させる危険を伴うが救う道はこれしかない。命を救うはずの彼らが自らの救助活動で命を奪いかねない作戦……。重圧がのし掛かる中、前代未聞の救出劇が始まる。合わせてドキュメンタリー『ザ・レスキュー タイ洞窟救出の奇跡』(ディズニープラスで配信中)を見ると、さらに驚愕する。映画終盤に起こる数々のアクシデントは脚色ではなく、実際に起きた出来事なのだ。この実話に感動しない者はいないだろう。世の中や人間に対して失望した時は真っ先にこの作品を見るべきだ。
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