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《写真あり》「笑顔で僕を抱く母の写真を見て『ちゃんと育ててくれたんだ』と気づかされました」昭和の白黒写真を“カラー化”してわかった「家族の絆」

『とある家族の物語』インタビュー #1

2023/10/08
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 コタツで家族団らん、古びた乳母車で遊ぶ子ども、タバコ屋で買ってもらったアイスキャンディー……。「昭和の家族の日常」の写真を投稿したことで、Instagramで9万人以上のフォロワーを集めた田中成人(59)さん。

「懐かしくて胸がいっぱいになる」と人気を呼ぶ写真の出典は、40年以上前に亡くなった父が遺した大量のアルバムでした。田中さんが、父の遺品である白黒写真をカラー化して気づけた「家族の絆」とは?(全2回の1回目/後編を読む)

コタツで家族団らんする昭和の田中家。取材に応じていただいた田中成人さんは当時、まだ小さな赤ん坊でした(写真:本人提供)

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きっかけは使わなくなった実家の整理

 兵庫県西脇市に住む田中さん。きっかけは、13年前に母が亡くなった後、使わなくなった実家の整理だった。田中さんの頭を悩ませたのは、父・耕三郎さんが生前に撮影した、大量の家族写真だ。

 一部屋にところ狭しと収納されたアルバムは、実に200冊以上。それでも収まりきらず、段ボールに詰め込まれたままの写真も3、4箱残されていた。父の死後40年以上、ほとんど誰にも見られないまま、ひっそりと埃をかぶっていた。

 アルバムから写真だけを抜き取り、ひとつひとつスマホで撮影してデータ化した。作業を進めるうち、見慣れぬ白黒写真を見つけ、手が止まった。

「僕が小学校入学以降のカラー写真はどれも記憶にある風景なので、見ても何とも思わなかったんです。でも、昭和41年ごろまでの3、4歳くらいまでの白黒写真には見覚えがなくて。ピンと来ないというか、初めて見るような感覚でした」

 当時、たまたま書店で、白黒写真をAIでカラー化した写真集を目にしていた田中さん。「これ、アプリでできるんじゃないか」。そう思いつき、早速撮影した白黒写真をアプリでカラー化し、パソコンに転送してみた。すると、画面に映し出されたのは、幼い自分や兄をあやす若い母、よく遊んでくれた兄、子煩悩だった父の笑顔――。半世紀以上前の記憶が鮮やかによみがえった。

カラー化に成功した田中さんとお母様の写真(写真:本人提供)

「見た瞬間、胸にガンッときたんです。元の白黒写真は小さくて見にくいし、遠い昔の写真のように思えたんです。それが、カラー化してパソコン画面に映したら、すごく鮮明で『ああ、こんなんやったんやぁ』と……。

 まだ若い父や母、幼い兄が急に身近に感じて、涙が出ました。特に、母は生前口やかましく、どっちかと言えば怖い存在でした。笑顔で僕を抱く母の写真を見て『ちゃんと育ててくれたんだ』と改めて気づかされました」

 写真の整理は1年近くかかった。せっかくだから、昔懐かしい景色を多くの人に楽しんでもらえたらと、2022年2月、写真をInstagramに投稿し始めた。

「正直、他人の家族写真をアップしたところで、見てもらえるのか疑問だったんです。ただレトロな町の雰囲気や、当時のファッションがわかる写真もたくさんあったので、好きな人には楽しんでもらえるんじゃないか、と」

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