広い店内にステージとダンスフロアがあり、生バンドによる演奏とダンサーによるショータイムを、席につくホステスと飲みながら楽しめる、“大人の社交場”であった「キャバレー」。スナックより豪華で広々としており、クラブほど料金は高くなく敷居が低い。どこか怪しげな雰囲気と、華やかで豪華なイメージのエンターテイメント空間は、高度経済成長期である昭和30年代から40年代にかけてもっとも増え、東京だけでも数百店舗あったとされている。
しかし、オイルショック、バブル崩壊という景気の悪化、ディスコやキャバクラなど新しい業態の発生、従業員の高齢化、建物の老朽化など様々な要因により数は減ってしまう。現在では数えるほどとなった現存する店舗も、ダンスフロアは客席に代わり、生演奏はカラオケになるなど、かつてとは姿を変えながら生き残っている状態だ。ここからは、昭和のきらびやかな世界が大好きな私がこれまでに訪れた、日本各地のキャバレーを紹介していく。
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イグサと工業で栄えた街の一角に……
熊本県八代市、イグサと工業で栄えた街の一角に、現在も生バンドによる演奏で歌が歌える、日本で唯一の純粋なキャバレー「ニュー白馬」が存在する。
1958年開業の同店は、デビュー前の八代亜紀がステージに立っていたことでも知られており、その他にも美川憲一や山本リンダなど数多くの有名人がステージに立ってきた。
ニュー白馬のメインフロアは赤い絨毯が敷き詰められた広いロビーから、階段を降りた場所にある。この地下室のような秘密めいた雰囲気に気持ちは昂ぶらずにはいられない。ムーディーな客席の奥にはシャンデリアに照らされたダンスフロアと、楽器が並んだステージが目に入る。
横に長いソファも豪華な雰囲気を盛り上げ、鏡張りの壁はより一層フロアを広く明るく見せている。昭和の時代はイグサ農家や工員が連日連夜訪れ、かつてあった2階席や、階段にまで人が溢れるほどの盛況ぶり。現在もイベント開催時は大いに賑わいを見せている。日本で唯一、ここにしか存在しない正真正銘のキャバレーをぜひ訪れてみてほしい。