都内の一等地にあった伝説的キャバレー
2018年、東京に残っていた生バンドが演奏するキャバレーがすべて姿を消した。そのうちのひとつ、銀座の「白いばら」は印象深い。
銀座、ガス灯通りと呼ばれる路地に、青と白の大きな箱型建築が見えてくる。壁面から突き出た大きな袖看板に書かれている毛筆風の店名ロゴが味わい深い。
壁には店内の様子を想像させる写真と、フロアレディ募集の広告が掲げられ、キャバレーの明朗さが伝わってくる。人通りの多い路地であたりを気にしながら立ち止まり、じっくり腰を据えて読み込みたい文章だ。
白いばらが人気を博した一因となったのが、入口横にある「あなたのお国言葉でお話が出来ます あなたの郷里の娘を呼んでやって下さい」と書かれた特大の日本地図。出身地別にホステス全員の名札がかかっている。これは、ふるさとの方言を聞くとホッとしたり、親近感がわいて話しやすかったり、また名前を忘れてしまっていても出身地は覚えている場合、名札から名前を思い出してもらうためだとか。
店内は赤を基調とした空間。真っ赤なソファのボックス席がずらりと並び、黒やゴールドが散りばめられた天井と壁が広がる。エネルギーに満ち溢れたこの空間にいるだけで気分が高揚する。通路ではドレスを着たホステスと、タキシード姿のボーイが忙しそうにしていた。
「ショーを観に来た」と伝えると、ショーが一番よく見える席へと案内され、まもなくホステスが1人につき1名ついた。周りの客は、ひとり、女性同士、同僚と……。年齢も職業も役職もさまざまで、誰でも入りやすいのがキャバレーの特徴である。客のタイプに合わせてホステスも、若い女性からこの道何十年の大ベテランまで在籍している。
初めて来たと伝えると、いろんなことを教えてくれた。ホステスは友達の紹介で入ることが多く、昼間は普通の仕事をしている一般的な、いわば素人だという。盛り髪はもちろん、茶髪もショートカットも、派手すぎるメイクも一切NG。素朴な、どこにでもいそうなおねえさんたちだからこそ、客も気取らず話しやすい、それが白いばらなのだ。ホステスたちにノルマや罰金はなく、ホステス同士も仲が良い、協力しあって客を楽しませることが最優先。だからこそ客から見ても、和気あいあいとした居心地のいい空間になるのだという。客1人で何人もホステスをつけることもでき、ひと時のハーレム状態を味わうことも可能。どの客もしあわせそうな表情で、見ているこちらまで嬉しくなる。