例えば、昭和40年の元旦。おもちゃで遊ぶ田中さんの写真と共に、こんな一文が添えられている。

おもちゃで遊ぶ子供の頃の田中さんと母の文章(画像:『とある家族の物語』より)

『もう寝ようかと迷ったが成ちゃん(田中さん)の相手して遊んでやる。オモチャのとこで一人ゴソゴソ遊びかけたので、またさっきしまったカメラ・ストロボをとりに二階へ。午後八時二十分頃。(中略)然し、あんまり可愛くてしようないポーズ。もう二度とめぐって来ない貴重な時……』

『とある家族の物語』

 この日記に驚いたのは、編集プロダクション「プランリンク」の近江聖香さんと、出版社「トゥーヴァージンズ」の編集者、小泉宏美さんだ。アカウントが話題になっていることを知り「書籍化できないか」と田中さんに連絡。西脇市を訪れ、実際にアルバムを手に取った2人がまず目を奪われたのは、日記の細やかさだった。

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「とにかくすごくて。びっしりと一面に、何時何分撮影して、その日に誰が何と言ったのか、その日の天気などすべて記録に残っていて。文字だけしかないページもあったりもするぐらい。当初は昭和を懐かしむようなタイプの写真集が作れないかと考えていたのですが、お父様の日記を最大限に生かしたような形で編集をした方がいいのではないか、と思い直しました」(小泉さん)

本の表紙にも使われた田中さんを抱くお母様の写真(写真:本人提供)

 実家で眠り続けていた父のアルバムが、書籍化され、多くの人の目に留まる。書籍のタイトルは『とある家族の物語』に決まった。

次の記事に続く 【いい話】遊んでもらえず反発したこともあったけど…「亡き父のアルバム」のおかげで愛情に気づけた“59歳男性の素敵な人生”