まるでダムが決壊したかのように相次いで発生した一連の無差別殺人事件。これを受けて、韓国社会では、「犯罪に対する処罰を強化すべきだ」という主張が高まっている。韓国では1997年以降死刑が執行されておらず、事実上の死刑制度廃止国家だが、最近相次ぐ残酷な犯罪で「死刑制度を復活させなければならない」という国民の世論が熱い。法務部(※日本の法務省に相当する韓国の国家行政機関)は死刑制度の復活の代わりに「仮釈放のない完全終身刑」の新設を推進する方針であり、国民の大多数がこれに賛成している。
また、ネット上にいたずらで犯罪予告文を載せる未成年に対しても厳しい処罰が必要だという声が上がるなか、韓国の検察はネットで犯罪予告文を掲載した20代男性に4000万ウォンを超える罰金を請求。今後もネットなどに犯罪予告文を掲載する行為に対しては民事、刑事上の処罰を強化する方針を明らかにした。
コロナウイルス感染症と就職難の影響でひきこもりが急増
犯罪予防のためにひきこもりに対する社会的な関心と管理が必要だという意見も支持を集めている。韓国の青年層(19〜35歳)のうちひきこもりとされる人数は、新型コロナウイルス感染症と就職難などで近年急増しており、少なければ24万人(国務調整室)から、多い場合は34万人(韓国保健社会研究院)と推算される。今年の初めに実施されたソウル市の実態調査によると、61万人まで推算できるという主張も出ている。
犯罪心理学の専門家たちは、「青年層が極端な競争に追い込まれて孤立を選択させなくするためには、生活、学業、就職などに対する多角的な政府政策が用意されなければならない」と口を揃えるが、実施には相当な時間と膨大な予算が必要となり、難題の中の難題だ。
韓国社会の「無限競争」体質はこれまで他国からの援助を受けていた韓国が、経済先進国へ躍り出た原動力となった要因だった。しかし一方で、競争社会から零れ落ちた人々に対する厳しい視線が、彼らを孤立させている。