韓国で相次いで発生している無差別殺人事件は韓国人の「安全な日常」を脅かしている。

 今年5月、20代の女性が自分と同じ年ごろの女子大生を残酷に殺害した事件が発生して以来、相次いで4件の無差別殺人犯罪が発生した。ネット上には雨後の竹の子のように模倣犯罪を予告する書き込みがなされ、地下鉄などの人が集まる閉鎖的な空間では、恐怖からパニック状態に陥る人も少なくない。毎朝、自宅を出た瞬間から、「運がなければ私も犯罪の対象となりうる」という、漠然とした恐怖感が韓国人を襲っているのだ。

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女子大生を刃物で数十ヵ所刺して殺害

 韓国を驚愕させた最初の事件は5月26日、釜山(プサン)で発生した。23歳の無職の女性、チョン・ユジョンは、家庭教師を斡旋するスマートフォンのアプリを使って一人暮らしの女子大生を犯行対象に選んだ。チョンは「わたしは中学生の娘を抱えた母親だ」と嘘をついてアプリ上で女子大生と接触。「子どもに勉強を教えてほしい」と約束を取り付け、中古取引サイトで購入した制服を着て中学生になりすまして女子大生の家を訪問し、刃物で数十ヵ所を刺して殺害した。

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 殺害後は自分の家に戻ってトランクを持ち出し、スーパーに寄ってラックス(洗剤)とビニール袋などを購入し、再び被害者の家に向かった。チョンは被害者の遺体を切断し、その一部を詰めたトランクを持ってタクシーを拾い、付近の草むらに行って遺体を遺棄した。タクシー運転手が彼女の行動を不審に思い、警察に通報したため、逮捕された。

 彼女は殺人事件を扱った映画や小説に心酔していたと報じられたが、特に、宮部みゆきの同名小説を原作とする韓国映画『火車 HELPLESS』を繰り返して見ていたという。彼女は犯行後、殺人の動機について「実際に人を殺してみたかった」と供述した。

ある殺人にかかわったとされる女性の失踪事件を描いた映画『火車 HELPLESS』の日本版ポスター。韓国では2012年に公開され、観客動員数200万人を超えるヒット作となった

「一生懸命に生きようとしたが、だめだった」

 2つ目の事件は、7月21日14時7分にソウル市新林(シルリム)駅で発生した。仁川市に居住する33歳の無職男性のチョ・ソンは、ソウル市衿川(クムチョン)区の祖母の家の近くのスーパーで包丁2本を買った後、近くの新林駅までタクシーで移動した。駅に到着したチョは近所を徘徊しながら、人々に向けてナイフを振り回した。彼は若い男性だけを狙い、4人の20代~30代男性に重症を負わせたが、そのうち20代の男性1人は病院へ搬送直後に死亡した。

「一生懸命に生きようとしたが、だめだった。他の人たちも(私のように)不幸にさせたかった」。14時20分ごろ現場に出動した警察によって逮捕されたチョはこう語った。彼は少年院送致の前歴が14件あり、大人になってからは暴力など3件の前科があって職場を見つけられず日雇い労働を転々としたという。犯行の数日前には、香港のショッピングモールで起きた通り魔殺人事件を検索していた。