「後藤は入らないで」夢を追って上京。しかし…
――その後、両親の反対を押しきって上京。声優を目指します。
ちょうどアニメ業界で「声優がキャラクターを演じながら歌って踊る」ことが求められ始めた頃だったんです。でも、私は顔出しをNGにしていたので、洋画の吹き替えが活動の中心でした。
薬の副作用で顔じゅうににきび(ステロイド痤瘡)ができていたし、太ってもいたので、顔出しに抵抗があったんです。
洋画の現場では、音響監督から声が悪目立ちするとよく言われました。まわりから浮かないように、自分の声の癖を消そう、抑えようと努力してしゃべっていました。
それでも「後藤は入らないで」と、モブに参加させてもらえなかったりして。横並びの新人たちのなかですら、自分だけが使ってもらえない状況には落ち込みました。
進路を一変させたあの人の“ひと言”
――それはかけだしの若手にはなかなか……。
そんな時、事務所の先輩であり、養成所でも講師をされていた、たてかべ和也さん(『ドラえもん』ジャイアン役など)が「声が悪目立ちするという欠点は、アニメでは武器にもなる。毒は薬にもなる」と言ってくれたんです。
「アニメだと目立つ声はひとつの武器なんだ、私の声もそうなれるかもしれないんだ」と、そこから顔出しを解禁し、アニメの声優に転じます。
アニメの現場でも「後藤の声はすぐわかる」と言われました。同じような言葉ですが、それは逆のニュアンスでした。大勢のキャラクターが出る作品などでは、むしろ他のキャラと声が似ていないことが「価値」とされました。
ここでは、浮くことがよいことなんです。「毒が薬」、本当でした。何より演じていてとても心地よかった。演じているのに妙な表現ですが、自分らしくいられたんです。
◆◆◆
こうしてアニメ声優として大きく進路を変えた後藤さん。その後『涼宮ハルヒの憂鬱』をきっかけに大ブレイクし、「毎日、朝から夜中まで何か仕事をしている状態」の人気声優となった。
しかし、2012年に持病の悪化で無期限の活動休止を発表。約2年の闘病の末、復帰を決めたが、そこには大きな葛藤もあったという。
あの日から10年が経ち、今年9月には初めて著書を刊行、11月には音楽フェス「第6回京都アニメーションファン感謝イベント KYOANI MUSIC FESTIVAL―トキメキのキセキ」にも出演が決まっている彼女。語られなかった想い、復帰後の変化……インタビューの続きとオリジナルカラーグラビアは発売中の「週刊文春エンタ+」でご覧下さい。
私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。
後藤邑子
文藝春秋
2023-09-12 発売
私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。
Audible Studios
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。