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丸1日の譲渡会で申し込みは1人だけ…猫好きの人たちが「譲渡のハードル」をあえて高くする本当の理由

source : 提携メディア

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私ならこの時点で、「もう飼うのはやめます」と言ってしまうかもしれない。面談終了後、女性に話を聞いた。

ついに申し込みはその女性だけだった

実は彼女は保護猫を飼うのが「初チャレンジ」という。これまでは近所に捨てられた猫を拾って、育てていたそうだ。いろいろ厳しいことを言われましたね? と水を向けると「保護猫を飼うのはハードルが高いって聞いてましたから」と苦笑いする。

「でも他の動物愛護団体の猫も見ましたが、ハントくんが性格的にうちの猫と相性がいいんじゃないかと思ったのと、奄美大島からわざわざ来たというので申し込みました」

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そして、「まあ、たしかにもう少し譲渡のハードルを下げてくれたらなって思います」と、つぶやく。

「私だって猫に逃げられたくないから、自分なりに脱走対策を行っているんです。でも、そう言いたくなる気持ちもわかるんですよ。変な人に譲渡したら大変ですからね」

女性と母親は自分たちを納得させるようにそう言うと、「がんばります」とぺこりと頭を下げ、去っていった。

その後も、30分ごとに50人が来場し、「あまみのねこひっこし応援団」のブースにも次々に人が訪れたが、ついに申し込みはその女性だけだった。

責任をもてる人でなければ、殺処分が増えるだけ

譲渡のハードルが高くなる理由のひとつは、各動物愛護団体が保護した猫を、里親に託すその日まで大切に育てているからだろう。子供を送り出すような心境になるため、つい口を出したくなってしまう。そしてもう一つ、墨田さんはこう力説する。

「ペットショップではその日に連れて帰れるし、飼う人の家を見に来ることもありませんよね。でもそうなると猫が脱走してしまう危険が高くなります。高齢者の方が子猫を飼い始めて、飼い主が亡くなった後にペットだけが家に取り残されて繁殖してしまうこともあります。そのようなことで、最終的に行政が猫を引き取るケースも数えきれないくらい起きています。それらを防ぐためには、譲渡のハードルを高くするしかありません。バランスが難しいですが、何もかもダメということではないんです。私が個人で譲渡するなら、“この人なら大丈夫”と思えるかどうか。もし猫が脱走してしまったら、最後まで諦めずに探し続けることができるか。そういった基準と覚悟で、里親さんに猫を託しています」