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アイドル引退後、人生に“詰んだ”時に「お前は誰かと一緒に住んだ方がいい」作家・大木亜希子さんが56歳の“赤の他人のおっさん”との同居で再生するまで

『つんドル』大木亜希子さん特別インタビュー #1

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声まで別人になっていた大木さん

――お姉さんが大木さんにシェアハウスを勧めた際、「今のお前は誰かと一緒に住んだほうがいい。とにかく話し相手が必要だ」と説得したと、小説では書かれていました。

姉 アキがササポンの家に住むようになるのは2018年なんですけど、その前に下北沢で偶然アキに遭遇したことがあったんです。遠くから「お姉ちゃ~ん」って手を振ってやって来たんだけど、あまりにもアイドル時代と容貌が変わりすぎていて、びっくりして。

 SNSとかに載せる写真では痩せて見えたけど、実物は、ものすごいふっくらしてたし、浮腫んでたの。声までくぐもっているように感じた。

大木 その頃、慣れない記者の仕事に全力投球してたから……。かなり洋服もサイズアップしてたかもしれない。

©橋本篤/文藝春秋

「ちょっと顔色悪いよ?」と最初は茶化していたんだけど、そのうち、どんどん調子が悪そうになって……。顔が灰色だったんだから! うちに泊まりに来たときなんかも、なんだか全てにおいて投げやりで、食べる量がすごくて。普通、カマンベールチーズってカットされた一切れずつ食べるものなのに、アキはホールごと食べてたの(笑)。「丸いまま食べる人いるの!?」って思ったんだけど、なんかそれすらつっこめない雰囲気になっちゃってた。

大木 たしかに、あの頃のお姉ちゃんは、私に対して遠慮がちだったよね。

姉 アイドルを辞めたあとに、せっかく周囲の人に貰って得た仕事だから、ものすごくそれにしがみついている感じがして、何を言っても響かなそうでした。あと覚えているのは、アキが履いていたパンプス、革が剥げちゃってボロボロだったこと。

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大木 たしかに剥げたところをマッキーで黒く塗って履いてた。

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』では主人公「安希子」を深川麻衣さんが演じた ©2023映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』製作委員会

「ササポンと一緒にいればアキの気疲れは取れるんじゃないかな、と」

 この子は周りの人にすっごく気を遣うんですよ。仕事関係の人はもちろん、たとえばお店の店員さんとか、もう会わないような人であっても、すごく愛想よく接する。そういう気遣いのしすぎで、いつも気を張っているんじゃないかな、大丈夫かな、って心配していたの。

 その点、ササポンって精神的にめちゃくちゃ安定しているから、たとえ気を遣われても「適当によろしく」「自分でやるからいいよ」ってなる。ササポンと一緒にいればそういうアキの気疲れは取れるんじゃないかな、と思って。それでササポンを紹介したんだよね。
 

©️橋本篤/文藝春秋

――その時点で、お姉さんがササポンさんの家を出てから、およそ14年近く経っていたわけですが。

姉 ササポンの家を出たあとも、時折連絡していたんです。「ササポン、ご飯行こー!」って。

ササポン これまで10人くらいがうちに住んだけど、退居後にも付き合いがあったのはこの人(姉)だけです。

大木 姉はすごくフランクな性格なので、誰とでも仲良くなる。誰かと仲良くなったら自分の友だちや、母親にも紹介するんです。姉とササポンが家族みたいな感じになっていた、という印象がありますね。

 あとは、ササポンが「夢を追いかける若い人を助けたい」からシェアハウスをしていたのも知っていたし、アキがそういうタイプだから、2人は合うんじゃないかな、って。ササポンとアキ、両方の事情を知ったうえで、一緒に住んだほうがいいと思ったんです。

ーー実際にササポンさんと暮らしてみて、いかがでしたか。