「仕事も恋愛も完璧な勝ち組にならなきゃ」という呪縛
大木 当時28歳だった私には「30歳までに成果を出して、仕事も恋愛も完璧な勝ち組にならなきゃ」という強迫観念のようなものがありました。振り返れば、必要のない“呪縛”だったなと思いますが、当時は周りから自分がどう見られているのかを考えることにとにかく必死でした。それである日突然、コップの水が溢れるように心を病んでしまった。
その点、ササポンは本当にクールというか、落ち着いているんですよね。私の仕事が上手くいかなかったり、恋愛で失敗したりして、「うわー!」ってリビングで叫びながらもがいていても「まぁ、すべて勉強だからね」「アキちゃんの人生が羨ましいよ」と淡々と言ってくれる。ササポンの前では濃いメイクも、愛想笑いもしませんでした。自分を飾ったり、取り繕う必要が一切なくて、自然体でいられるようになったんです。
――次第に変化していったんですね。
大木 そうですね。でも、思えば最初から「もしかしたら、何かが変わるかもしれない」という予感はありました。私が入居したその日にササポンと2人で食事に行ったんです。普段は食事は別々でしたけど、その日は近くの定食屋さんに。
そこでついポロっと「私、仕事もなくて、お金もなくて、恋人もいなくて、これからどうしていいかわかんないんですよね」って呟いたら、ササポンが「でも、誰にでも1つぐらい才能あるんじゃないの?」と。その何気ない言葉に、なんだかすごく泣けてきてしまって。私がボロボロと涙をこぼしてもササポンは動じずに、自分のおしぼりをポンと渡してくれるだけだったんですけど(笑)。文筆業を頑張っていこうと思えたのは、あの日の言葉があったからです。
取材・構成 加山竜司