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「廊下の向こうに黒ずくめの男が」カギをかけなかったせいで…女子学生6人が生活する家で起きた“殺人事件の結末”

『ゾンビ化するアメリカ 時代に逆行する最高裁、州法、そして大統領選』より #2

2023/11/14

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 読書, 国際

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GPS記録とDNA鑑定から犯人を特定

 ところが事件から7週間後の12月30日、現場から2000マイルも離れたペンシルヴェニア州で突然、容疑者が逮捕された。ブライアン・コーバーガー(28歳)。現場から西に7マイルも離れた隣の州、ワシントン州立大学の学生だった。この2カ月近く、モスコー警察は密かに、だが着実に犯人を追い詰めていたのだ。

 殺人現場には凶器となったナイフの革製の鞘が残されていた。また、現場の近くの道路の監視カメラに白い乗用車が何度も映っていた。この2つが手がかりだった。

 警察は現場周辺の他の監視カメラを調べて、その白い乗用車のゆくえを追跡し、ワシントン州立大学を突き止め、学校を調査して、それがコーバーガーのものだと特定した。免許証の写真のコーバーガーの眉毛はフサフサしており、目撃者の証言と一致する。

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 また携帯電話会社にコーバーガーの携帯のGPS記録を提出させると、彼が犯行の半年前から12回も現場の家の前にいたことがわかった。その頃から狙っていたらしい。

 しかし、これでは状況証拠にしかならない。逮捕するには物的証拠が必要だが、見つかったのはナイフの鞘だけ。その鞘を止めるホックから犯人の細胞の一部が採取され、DNAが検出された。

※写真はイメージです ©AFLO

 今度はそれをコーバーガーのDNAと照合するのだが、彼には過去に犯罪歴が無く、DNAのデータは警察に保存されていない。そこでモスコー警察はペンシルヴェニア警察の協力を仰ぎ、実家のゴミを回収させた。ゴミの中からコーバーガーの父親のDNAが検出され、それは99.9998%の確率で、犯人の父親のものだった。コーバーガーが実家に戻ると4日間、警察は彼を監視し、ついに室内にドアと窓から突入して逮捕した。

世界的な血統図を構築

 ここ数年、アメリカではDNAを用いた捜査方法が急激に発達し、過去の迷宮入り事件が次々と解決している。たとえば、1974年から1986年にかけてカリフォルニア州サクラメント周辺で50人以上をレイプし、うち少なくとも13人を殺し「ゴールデン・ステート・キラー」と呼ばれた連続殺人鬼は30年以上経った2018年に逮捕された。警察が現場に残されたDNAデータを、家系図サービスにアップロードしたのだ。

 アメリカにはアンセストリーやGEDマッチなどいくつもの家系図サービスがある。税金申告書に記載された家族情報とDNA情報の組み合わせによる膨大な家系(血統)データベースを構築し、アメリカはもとより、アジア、アフリカまで、すべての人の数十代におよぶ世界的な血統図を構築している。

 たとえば、メキシコ系アメリカ人の女優エヴァ・ロンゴリアと、中国系のチェリスト、ヨーヨー・マが遠い遠い親戚である事実を突き止めた。アジア北部で南下したマの家系が、北上してベーリング海峡を越えてアメリカ大陸に渡り、メキシコまで南下した家系がロンゴリアにつながった。

 ゴールデン・ステート・キラーのDNAから家系図が特定され、その中から、警察は犯行時にサクラメント周辺に住んでいた者を特定し、ジョセフ・ディアンジェロ(77歳)を逮捕した。彼は事件発生時、警察官だった。

 アイダホの殺人犯、コーバーガーも刑事司法と犯罪学の博士課程にいて、警察の実習生に応募していた。今のところ、殺人の動機は発表されていない。犯罪学の実験として殺したのだろうか。

 DNA血統データベースと監視カメラ、携帯電話データの組み合わせで彼が逮捕されたのはいいけど、データ監視社会の完成形という感じでちょっと怖い。宮台真司さんを襲った犯人が今も捕まらない(1/13現在)日本って、アメリカよりかなり遅れてるみたいね。

「廊下の向こうに黒ずくめの男が」カギをかけなかったせいで…女子学生6人が生活する家で起きた“殺人事件の結末”

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