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 プロ野球選手に契約金はあっても退職金はない。

「まったく収入はないのに、店舗の賃貸契約をした時点で、保証金も家賃も発生します。契約してから4カ月くらいは空家賃を払っていました。プロ野球選手時代に貯めていたお金はどんどん減っていって、『やべえ、やべえ』となりました。ものすごいスピードでしたね。

 北海道に住む兄がしばらく東京に滞在して、店の立ち上げを手伝ってくれました。彼もそれほど経験があるわけじゃなかったけど、料理が好きで、僕よりも知識があるし、段取りもわかっていたので。不安いっぱいのスタートでしたが、コツコツやるしかないと思っていました」

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 米野は厨房に入り、接客もした。もちろん、どちらも初めての経験だった。

「当初の予定では、僕はそれほどお店にいるはずじゃなかったんだけど、そうは言っていられない。カレーやホットサンド、サンドイッチならできる。妻が独学でスイーツをつくれるようになって、本当に助かりました」

 賃貸契約から4カ月、やっとカフェレストラン「inning+(イニングプラス)」はオープンにこぎつけた。

「もし飲食店を始めるなら、居抜きをおすすめします。初期費用が全然違いますから。自分の中にゼロから店をつくりたいという思いがあった分、苦労しましたね。なるべく小さくスタートするほうがいい。今から僕が始めるのなら、絶対にそうします」

 オープンまで時間はかかったが、滑り出しは好調だった。プロ野球時代の知名度も役に立った。

現役時代の米野氏 ©時事通信社

「インスタグラムを見て来てくれる人もいたし、テレビ番組の取材も受けました。オープンした時にはいろいろな反響があったんですけど、それだけでうまくいくほど甘くはなかったですね。

 飲食業のセオリーを知っている人は、立地条件とかお店の認知を上げる方法や流行らせ方がわかっているんでしょう。僕にはそんな感覚がないので、とにかく手探りで進めていくしかない。未経験でよくわからないことばかりだったから、とにかく難しかったですね」

軌道に乗るまで3年はかかると覚悟

 35歳と若い米野は、考えることよりも行動を優先した。

「あとから考えれば、もっと準備に時間をかけたほうがよかったのかもと思いますけど、あの時はとにかく早くお店を始めたい気持ちが強かった。

 初期投資2000万円からのスタート。軌道に乗るまで3年はかかると覚悟していました」