「その時、その時で判断していかないといけない。プロ野球でパニックになりながらも頑張った経験が今に生きています」
34歳でプロ野球を引退し、現在は飲食店経営者として活躍する米野智人(41)氏のキャリアを紹介。彼が語った「飲食店経営とプロ野球の意外な共通点」とは? スポーツライターの元永知宏氏の最新刊『プロ野球で1億円稼いだ男のお金の話』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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35歳で未経験の飲食業に転身
1982年生まれの米野智人は、ユニホームを脱いですぐ35歳になった。その時には、自らが経営者になって飲食店を出すことを決意していた。
米野は言う。
「現役時代から食と健康には興味がありました。30歳になった頃から、試合や練習の疲れが取れにくくなりました。それまではあまりケアしなくても大丈夫だったんですが、朝起きた時に『なんか、疲れてるな』と感じることが多くて。
ある時、食に気をつけるようになってから体調がよくなったので、食は健康にとって大事なんだと痛感しました。そう思ってから、より食に関心を持つようになりました」
2017年、若者に人気のある下北沢(東京都世田谷区)に「inning+(イニングプラス)」というカフェレストランを開いた。駅から徒歩1分ほどの、立地のいい場所だった。
「自分でお店を出すからにはこういうふうにしたいという理想があって、ギー(インドのバターオイル)やグルテンフリーでつくったナチュラルで体に優しいヘルシーメニューを提供するお店を出そうと決めました」
しかし、飲食業の経験もなく、サービス業の知識も乏しい米野にとって簡単なことではなかった。
「2016年秋に引退してすぐに賃貸契約をしたんですけど、ビル自体がまだ新しくて、その前には何も入っていませんでした。飲食用ではなくてスケルトンからやったので、20坪弱の広さでもけっこう費用がかかりました。厨房機器を入れたら、2000万円くらい。『こんなにかかるのか!』と思いました。
1階にスーパーマーケットの成城石井、2階に飲食店はなくて、隣に美容室が入っていました。とにかく、駅から近かった」
もちろん、駅からのアクセスが重要なポイントだとわかっていたが、それだけでは十分でないことを米野は理解していなかった。
「賃貸契約をしたあと、飲食店経営に詳しい人と話す機会があって、外から店内が見えないから軌道に乗るまでに時間がかかると言われました。
僕にはまったく経験がなかったので、そういうことはわかりませんでした。かなりの初期投資をしていたから、もうここでやるしかない」
賃貸契約から4カ月でやっと店がオープン
自身の経験から、ナチュラルで体に優しいヘルシーメニューを提供するというコンセプトは決まっていた。だが、看板もつくらなければいけないし、コンセプトに合った内装や食器をそろえるのにも金がかかる。ほかにも、いろいろな準備が必要だ。飲食店をイチから始めることの大変さを、未経験の米野は思い知らされることになった。
「はじめは飲食店経営をしている人と組んでやろうとしていました。ソバをメインにと考えていたので、200万円くらいかけて新品の製麺機を入れたんです。でも、結局ひとりでやることになり……資金を出すのは僕ひとり。『どうしよう……』というところからのスタートでした」