「プロ野球選手は、子どもの頃から野球が好きで、大好きなことを仕事にできた人たちだと思う。何十年も野球だけに打ち込んだ人たちだから、それ以外の別の道を探すのは難しい」

 それでもヤクルト、西武、日本ハムを渡り歩いた元プロ野球選手・米野智人(41)氏が、飲食店経営者としてのセカンドキャリアに進めた理由とは? スポーツライターの元永知宏氏の最新刊『プロ野球で1億円稼いだ男のお金の話』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

写真は現役時代に、阪神・鳥谷敬をタッチアウトしたもの ©時事通信社

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コロナが猛威を奮ったときに転機が訪れた

 オープンから3年経った2020年春、新型コロナウイルスが世界中に広がっていった。

「少しずつリピーターや常連さんが増えて、形になってきたなと思ったところでコロナに襲われて……それからは相当キツかったですね」

 普段であれば若者であふれる下北沢の街から人が消えた。

「夜にお店を開けていても、誰も来ませんでした。下北沢にお店を出したのは、土地勘があったから。役者やバンドマンがいたりして、街には文化がある。プロ野球選手の時には休みの日にランチをしに来ることがありました。

 いろいろなジャンルの人が集まるから面白いかなと思ったんですけど、飲食業の人にとっては商売が難しいところだそうです。実際に、僕がカフェをやっている間に、街の様子はいろいろ変わっていきました」

 コロナが猛威を振るったこの期間に、米野にターニングポイントが訪れた。

「埼玉西武ライオンズの関係者から2017年くらいに『球場にお店を出さないか』と言われたことがあったんですが、その時はお断りしました。

 2020年になって、もう一度お話をいただいて。コロナの緊急事態が続くなかで、このまま飲食店を続けても厳しいんじゃないか。ファンがたくさん集まる野球場で、自分が所属したチームの本拠地でお店をやれるのならと思いました。何かを変えたいという気持ちがあったので話を聞いてみました」

 2021年3月、ライオンズの本拠地・ベルーナドームのライトスタンド後方にビーガン食を提供する「BACKYARD BUTCHERS」(バックヤードブッチャーズ)をオープンさせた。

「自分でも挑戦してみたいという気持ちになって。そういうタイミングでした。『店のコンセプトから考えていいのならやらせてほしい』と答えました。店名の「BACKYARD BUTCHERS」は「裏庭の肉屋」という意味ですが、メインのグラウンドだけではなく、バックヤードのお店側からも球場を盛り上げたいという思いがあります。

 動物性のものを使わず、植物性の食材だけを使用しています。欧米に比べると、日本では『ビーガン』(菜食主義)が広がっていませんが、それに特化したお店を初めて野球場で始めようと考えました」

今年で3年目を迎えた「BACKYARD BUTCHERS」(写真:本人Twitterより)

 2021年のプロ野球では、観客の入場制限があった。

「正直、売り上げは厳しかったんです。ただ僕にとってよかったのは、試合やコンサートがある日だけの営業なので(年間80日~100日ほど)、それ以外の日には別のことにチャレンジする時間があること。それまでは一日24時間、店のことしか考えられない状況だったけど、別の収入を得られるかもしれないし、新しいことにチャレンジもできる。それが僕には大きかった」