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 プロ野球において、引退試合で送られる選手はひと握りだ。ほとんどは所属チームから戦力外通告を受け、グラウンドを去ることになる。10人の新人が入団すれば、同じだけの選手がいなくなる厳しい世界だ。

 自らの経験を米野はこう振り返る。

「僕もそうだったんですけど、毎年、チームの中でクビになる人を見ているので、選手たちは戦力外になりそうな人のことはよくわかるんです。『あの人は危ない』と見ていると、だいたいそうなります。『次は俺かも』と思っていたら、ライオンズから戦力外を告げられました。やっぱり、球団の人から電話がかかってきたらショックですよ」

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 どういう決断をしても困難が伴うが、進路を決めるのは自分自身だ。

「どんな形でも、まだ現役を続けたいと思う選手はいいんです。海外でも、独立リーグでもと前向きに考えることができるから。やめようか、続けようかなと思うのがダメですね。迷いながらやって、成功できる世界じゃないですから。

 野球に未練があるうちは、ほかのことを始められないと思う。迷いがあるなら、期限を決めて、野球の世界で頑張ればいい」

 野球にすべてをかけてきた時間が長ければ長いほど、悩みは深くなる。

「パンと気持ちを切り替えられればいい。何をやるかよりもそれが大事。そういう気持ちをつくることができるかどうかが、セカンドキャリアを考えるよりも難しいかもしれない」

 野球はこれで終わり――そう思えた時に次の世界が見えてくる。

いつかは何か別のことをしないといけなくなる

 米野が飲食業に飛び込んでから7年目になる。

現在はさまざまな分野で大活躍(写真:本人インスタグラムより)

「プロ野球選手は、子どもの頃から野球が好きで、大好きなことを仕事にできた人たちだと思う。何十年も野球だけに打ち込んだ人たちだから、それ以外の別の道を探すのは難しい。

 野球が仕事でなくなった時に、『俺は野球しかしてこなかったからダメだ……』と思ったらいけない。僕は『野球をやってきたから今がある』と思えてきたんです。目の前にある問題とか、課題を、野球に置き換えて考えることができるようになった。

 僕は野球とはまったくジャンルの違う飲食の世界で生きています。今の仕事をするようになってからも、たくさん失敗したし、これからもすると思う。ただ、自分が一生懸命にやってきた野球に置き換えて考えることができれば、解決策も苦しいところから抜け出すヒントも得られるはず」

 成功も失敗も、未来を変える糧になる。

「プロ野球でしたいろいろな経験を大事にしてほしい。野球はものすごく複雑なスポーツで、何が正解なのかわかりにくい。状況や流れがいろいろと変わるなかで、その場その場で判断しないといけない。『俺ならここでどうする?』と考えてきた経験は、違う世界でも役に立つんじゃないかと思っています。それを次のキャリアで生かしてほしい。野球をしていたからできることもたくさんある。

 ただ、みんな、プライドがあるので、それが邪魔をすることがあるかもしれない。心配なのはそこですね。プロ野球選手は自分の選手寿命が短いのはわかっているのに、あまり先のことは考えない。今と同じだけの年俸をずっと稼げると錯覚してしまうんです。だけど、野球の世界でずっと生きられる人はひと握りです。いつかは何か別のことをしないといけなくなる」

 米野は現役時代に興味を持った食の世界に飛び込んでいった。プロ野球ファンに支えられながら、一歩一歩、前に進んでいる。