日本発の経営技術を貿易的視点で考える
そのように主張すると、「それでは世界から取り残されてしまうのではないか」と心配する人もいる。
だが、日本独自の価値や日本独自の経営技術のコンセプト化を進めるというのと、鎖国をするのとは全く別である。ここで主張しているのは、日本の経営技術を大切にし、独自のコンセプトを作り上げつつ、同時に常に世界の動向にもアンテナを張りめぐらすということだからだ。アメリカの後追いをするのではなく、日本の独自性を追求して、それをもとにアメリカ発の経営技術と日本発の経営技術を適宜交換するということである。
これって普通のことじゃないか、と思われたら筆者の主張の大部分は伝わったことになる。
これはまさに貿易では常識なのだ。
貿易においては、仮に全産業の生産性が優位にある最強の国家があったとしても、その国はその国の中で比較的得意な生産物に特化し、開国して他国と自由貿易をした方が、国民全体の効用が増加すると論じる。得意なものに注力し、各国にそれぞれ得意とする貿易品が存在し、それを互いに貿易・交易することで、すべての国がそれ以前より豊かになるのである。
現在、この考え方は世界の貿易政策の根幹をなしている。
実は、本章で主張していたのは、経営技術のグローバル競争においても貿易的視点で考えようということなのである。だから、本来ならば政策的にもあたりまえのことなのだ。それにもかかわらず、何かの力によって、経営技術に関してはこうした考え方が取られてこなかったのが問題なのである。
だからこそ今、日本の産官学が経営技術の逆輸入という状況を認識し、方向転換する必要がある。
その上で、たとえば学界に関しては、日本発の英語ジャーナルを創刊して、こうした日本の経営技術にもとづいたコンセプトを発信していくという手もある。さいわいなことに、アメリカをはじめとする世界の企業や研究者たちは、世界中に何かいいアイデアがあればすぐに飛びつくのはすでに見てきた通りである。
日本発の経営技術をもとにしたコンセプトで日本企業の調子がいいとなれば、世界はすぐに日本発の英語ジャーナルからも学ぶようになるだろう。