アマゾンの創業者であり、世界有数の大富豪ジェフ・ベゾス氏は、「カイゼン」概念をはじめ、日本の経営から現在でも多くを学んでいると公言している。それにもかかわらず、日本でGAFAMに肩を並べるような世界的企業は育ってきていない。いったいなぜなのか。
ここでは、慶應義塾大学商学部准教授の岩尾俊兵氏による『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』 (光文社新書)の一部を抜粋し、日本企業とグローバル企業の経営技術の差を見ていく。
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日本は「何に」負けたのか
それではいったい日本は何に負けたのだろうか。
もっとも単純な答えはコンセプト化の力で負けたということだろう。日本はもともと文脈依存度の高いコミュニケーションを強みとしてきた。だからこそ、多民族・多国籍の人に普遍的に伝わるようなコミュニケーションの方法、すなわち抽象化と論理モデル化の訓練の場が少なかったといえる。
また、抽象的な議論を展開しても「具体的にはどういうことか」や「実際に何に使えるのか」という疑問がはさまれやすいということもあるかもしれない(ただし、これはあくまでも印象論である)。
だが、日本が負けたのはコンセプト化の力だけではない。
日本は、日本の経営技術を信じる力で負けているのである。
すでに指摘しているとおり、日本の産官学には、根拠なき悲観論や、根拠なき自虐、自信喪失といった雰囲気が蔓延している。日本企業が海外のコンセプトをろくな検討もせずに追いかけるということもある。政府等が「オープン・イノベーション」などのコンセプトを、その本質を追求することなしに、闇雲に取り入れることもある。そうこうしているうちに、アメリカをはじめとする世界は日本の経営技術を虎視眈々と狙っているのである。
皮肉なことに、日本を冷静に客観的に評価しているのは、日本ではなく世界なのだ。
筆者をはじめとする日本の研究者もまた、海外にばかり目を向けてきた。海外のコンセプトを使って、海外の事例やデータを使って、海外の研究者と見分けがつかないようにならなければ、海外の学術雑誌に論文を掲載してもらえないという雰囲気が漂っている。実際に、自戒を込めていえば、筆者自身もそうした雰囲気にのまれて研究業績を積んでいた時期もあった。