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「世界から取り残されてしまうのではないか…」経済停滞が続く日本と海外企業の“経営技術”の“圧倒的な差”とは?

『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』より #2

2023/11/01
note

日本独自の強みをいかした差別化戦略を

 だが、本当は日本において日本独自の研究をしながら海外に発信する手もある。

 実際に筆者も、こうした反省を活かして、日本独自のカイゼン研究を世界に向けて少しずつではあるが発信しており、海外に何人かの共同研究者や理解者も出てきた。彼らはもともとの知り合いではなく、筆者の論文を読んで連絡を取ってきた仲間である。その結果として、アメリカ生産管理学会(Production and Operations Management Society)の創設者であるボルティモア大学・カルヤン・シンハル教授や、『Management Science』元編集長などが共同で立ち上げた実務向け雑誌『Management and Business Review』誌に、日本式のKaizenを再考すべきと主張する論文が受理されている。

 世界は急速にグローバル化を進めているといわれる。しかし、だからといって強みを捨ててアメリカと同じになる必要はない。

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 むしろ、アメリカと同じになろうとしても、すでにアメリカの産官学が強みとするものに追いつこうとする時点で、二番煎じにしかならないだろう。

 グローバル化の時代にあっても移動しないのは、国と地域、そしてその地域に根差したコミュニティそのものである。だからこそ、そうして移動しづらいものまでアメリカと同一にするのではなく、むしろ独自性・多様性を持つことによって、アメリカをはじめとする世界から注目されることを目指すというのが、戦略的にも正しいだろう。

岩尾俊兵氏

 そのように考えると、日本の産官学は、実はこうした戦略でも負けてきたのではないだろうか。

 本来、経営戦略というのはビジネスにおいて「何をするか」ではなく「何をしないか」を考えるものである。そして、その際には自己の強みと弱みを把握して、それに合わせてポジショニングをおこなう。戦略の基本に立ち返れば、日本が日本の強みを捨てて、アメリカで流行っている経営技術をすべて後追いするというのは「あれも、これも、何でもやろう」とする明らかな戦略ミスである。

 せっかく日本にはたとえばカイゼンのような強みがあるのだから、元から日本が強い分野の経営技術のコンセプト化と発信に注力し、同時にアメリカがすでに強い経営技術のコンセプト化の後追いはせずに素直に利用者として取り入れる、というのが差別化戦略というものである。

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