バブル崩壊後、1991年から2021年までの約30年間において、日本の平均経済成長率は0.7%にとどまった。物価高が進む一方、庶民の賃金は一向に上がっていない。どうすれば日本経済は復活することができるのか。

 ここでは、東大史上初の経営学博士である岩尾俊兵氏による『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)の一部を抜粋。同氏の見解について紹介していく。

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「ヒト優位の経営」と「カネ優位の経営」

 経営者の孤立と従業員の困窮、一見すると正反対のふたつは実は同根の問題である。

 さらに、平成時代を通じていっこうに上がらなかった賃金、低成長が続くGDP、低生産性、イノベーションの不活性化、相次ぐ金銭目的の犯罪行為、日々の仕事を縛る名ばかり管理……日本を取り巻く一見無関係に思えるこれらの問題もまた共通の原因から発生しているとしたらどうだろうか。

 これらの問題はすべて「経営の知と心の社会的な偏り(社会の中でほんの一部の人たちが経営知識と経営意識を独占すること)」という同じ原因から生じていると考えられる。

 経営の知と心が一部の人に独占されてしまうからこそ、経営人材ではない多くの人の賃金は上がらず、経営発想が生まれないためにGDPも低成長にとどまり、イノベーション実現のために協力し合えず、価値創造から金銭を得る方法が分からずに犯罪に手を染める人が増え、他者の力を引き出す経営ではなく他者を監視する名ばかり管理がはびこる。

 これに対して、過去の日本式経営は、少なくとも理念型・理想型としては、「すべての人が価値創造の主役」と考えて、この「経営の知と心の社会的な偏り」をなくす試みだった。

 過去の日本の経営においては、名実ともに価値創造の主役はカネではなくヒトだった時期がある。その背景にあったのは、昭和という「インフレ下の経営」である。

 ここで、インフレとは、相対的にカネの価値が下がりヒトやモノの価値が上がることを指す。反対に、デフレとは相対的にカネの価値が上がり、ヒトやモノの価値が下がることを指す。振り返ってみれば、平成の経営は、デフレという、カネ優位の時代におけるヒト軽視の経営だったのである。