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「ヒトよりカネ」の似非世界標準経営が生み出す対立

 だが、その後の日本には「ヒトよりもカネが大事」な似非世界標準経営が広まった。

 現代の日本では、コーポレート・ガバナンスの仮面のもとに、カネを守るためにヒトにムダな書類を作らせ、ムダな時間を使わせ、ムダな監視をするといった、経営とはいえない「名ばかり管理」が横行している。成長のために真に必要なコーポレート・ガバナンスの理念を曲解した管理が蔓延っているのである。

 反対にアメリカをはじめとする海外では、たとえば「心理的安全性」や「ティール組織」等の議論にみるように、ヒトを大事にする経営への志向が強まっているにもかかわらず、である。その意味で、日本において流行するアメリカ式経営は「似非」世界標準、「似非」アメリカ式経営に過ぎない。

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 その証左として、本編で詳しくみていくように、過去の日本式経営の強みは、今ではGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック[現:メタ]、アマゾン、マイクロソフト)をはじめとした世界的企業に取り入れられている。こうして、日本企業は日本式経営を自己破壊するどころか、ときには諸外国から日本源流の経営コンセプトを逆輸入することさえあった。

 日本の主流派が「カネよりヒト」から「ヒトよりカネ」の経営に変わったことで、経営者にとっての従業員は「同じ経営人材として経営者と一緒に価値を付加する仲間」ではなくなった。経営知識と経営意識が共有されていないから、経営者と従業員が仲間ではなくなる。こうして経営者は孤立し、従業員は仲間として尊重されずに困窮する。「経営を一緒に考えられる仲間がいない」と嘆く経営者も、「経営者が自分を尊重してくれない」と悩む従業員も、どちらも経営知識と経営意識の組織内での偏りによって生まれているのである。

©AFLO

「日本式経営」の強みを取り戻そう

 今こそ、日本に住むすべての企業人は、「日本式経営の自己破壊・逆輸入」の弊害を認識すべきだ。なぜなら、日本式経営の自己破壊・逆輸入は、「強みを捨て、弱みを取り入れる」という完全な愚行であり、日本企業の存続を危うくするからだ。

 もちろん、すでに日本式経営の自己破壊・逆輸入という状況に漠然と気付いていたという方も多いと思われる。だが、そうした方々にも本書が役立つはずである。なぜならば、本書はそうした方々がもつ漠然とした違和感に明確な理論づけをおこなっており、日本式経営の自己破壊・逆輸入に反論する際の論拠を提示するからだ。

 日本式経営の強みを取り戻すことで、解決不能のように見えていた対立が解消され、すべての人が豊かに暮らしながら、日本企業の生産性も高まるという未来がありうるかもしれない。この対立解消のためには、(1)日本式経営の強みの本質を再確認し、(2)日本式経営の自己破壊のメカニズムを認識するという、2段階が最初の一歩になる。

 このように考えれば、本書が提起する問題は、経営者から従業員まで、本来はすべての企業人が無関係ではいられないはずである。