国際的に見て「低賃金」とされる日本企業。仕事ばかり増える一方で給料が上がらず「やりがい搾取」に苦しむ人も多い。ただ、反対に「低賃金でも大喜びで働く人」がいるのも事実だ。一体なぜなのか。背景には“良い搾取”の存在がある。日々苛烈さを増す資本主義の現代を生き抜くヒントをまとめた書籍『働かないおじさんは資本主義を生き延びる術を知っている』(侍留 啓介著、光文社)から一部抜粋し、アップルストアなどの事例を基に「超一流企業」による“良い搾取”を解説していく。

低賃金でも大喜びで働く人が集まる企業の特徴とは? ©Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート

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安月給でコキ使う「やりがい搾取」が生まれる構造

 B(経営者)が肝に銘じておかねばならないのは、再三強調している通り、「いかに安定的に搾取するか」という視点である。資本主義ゲームの中で、手段はどうあれ、利益を最大化することこそが経営者にとって唯一の生き残り策であることを思えば、この視点は避けては通れない。

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「搾取」のベクトルは、顧客と従業員の双方に向かいうる。すなわち、顧客には「より多くを支払わせること」、従業員には「より少ない報酬で満足させること」が肝要となる。もちろん、最も望ましいのは、顧客や従業員とWin-Winの関係を築くことであり、この場合、一般的な意味での「搾取」には当たらないだろう。

 しかし、ここで強調しなければならないのは、Win-Winの理想状態が築けない場合、相手に損をさせてでも自分や自社が生き残ることが求められる(すなわちWin-Loseとなる)ということである。そして、Win-Loseの状態では、搾取構造がとられやすい。

 まず前者──顧客からの搾取について見てみよう。

 企業は、あの手この手で顧客からより多くの代金を支払わせるべく努力している。しかも、なるべく顧客の「内発的動機づけ」(第2章参照)によって支払わせたい。顧客が自らすすんでその対価を支払いたくなるよう仕向ける、ということである。これがマーケティングの基本となる。価格体系を意図的にわかりにくくすることも、しばしば講じられる手段である。前述の携帯電話のわかりにくい価格構造はその典型例だ。