入社希望者が絶えない「良い搾取企業」の特徴

 ノーラン・ブッシュネルとジーン・ストーンの著作『ぼくがジョブズに教えたこと』(飛鳥新社)は、伝説のゲーム会社アタリの創業者であるブッシュネルが、アタリ社の40人目の社員であったスティーブ・ジョブズに授けたヒントに基づいて、創造的な会社を作り上げる秘訣を51カ条にまとめたものである。たとえば25条の「手柄はチームのものと心得よ」をみてみよう。

 アップルストアの店員は、安めの賃金で、3カ月で75万ドルも売り上げる。そういう環境をアップルが作りあげたからだ。4万3000人いるアップル社員のうち約3万人がアップルストアで働いており、その給与は年間2万5000ドル程度にすぎない。だが、皆、大喜びで働いているという話しか聞こえてこない。 愛国心に匹敵する気持ちがなければできない献身だろう。

 優れた企業には、お金でない「何か」がある。その「何か」で優秀な人を惹きつけている。それを「やりがい搾取」と呼ぶのか、内発的動機づけと呼ぶのか、優れた企業文化と呼ぶのかは解釈の問題であろう。

人が働く理由は「賃金」だけではない。優秀な人材を引き付ける魅力があるとして、著者が挙げる企業が「マッキンゼー」だ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン公式HPより引用)

 また、企業のブランドやそこで提供できる経験の質も重要である。きちんと統計を取ったわけではないが、どの業界でも優良企業になればなるほど、他の同業に比べて給与が低く抑えられる傾向がある。

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日本企業では「三菱商事」が好例だ(同社公式HPより引用)

 今は異なるかもしれないが、私が新卒として入社した三菱商事も、MBA取得後に入社したマッキンゼーも、同業他社に比べると、少なくとも初任給は高くなかった。他社より給与が低くても、そこで得られる経験や、そこで働けるステータスに魅力があれば、優秀な人材は応募してくる。経営者としては、このような採用戦略を目指すべきであろう。

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