現代マーケティングとは「搾取」かもしれない

 実はこうした価格をみえにくくする手段は、資本主義のごく初期の段階から、企業活動に組み込まれていた。第1章で触れたミシシッピ・バブルを思い出してほしい。18世紀のフランスで起きた株価の乱高下で多くの人が財産を失った。この狂乱の立役者であったスコットランド人ジョン・ローの墓碑銘には、こう綴られていたという。

 代数の法則を使って
 フランスを破滅させた
 たぐい稀れな計画家で
 有名なスコットランド人ここに眠る。

 一説にはパロディとして流布されたものとも考えられているが、バブルを引き起こしてフランス国外へ逃亡したローに、人々がどんな目を向けていたかが示されている。要するに、「理屈でごまかしてフランス人たちをひどい目に遭わせた」ということである。

「低賃金」でも「大喜びで働く」人が集まるアップルストア。日本にもこうした“搾取”に長けた有名企業がある ©時事通信社

 ローの才能は、数学などを引き合いに、もっともらしい話を聞かせて、相手を煙に巻くのがうまかった、という点にある。話を聞いている方も、実際には理解できていないのだが、理解できたふりをせざるをえなくなるように仕向けられていたのである。

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 ローを単に詭弁家として片づけることは簡単である。しかし、ローの才能を、科学的な理屈でもって緻密に練り上げた事業戦略に基づき、顧客を説得する技術だと考えれば、これは現代マーケティングそのものである。