断っておくが、価格体系をわかりにくくさせて値上げしていくことは、これ自体が問題なのではない。ことにサービス業にとって、価格を上げていくことは生命線である。サービス業は、製造業と違って原価構造が複雑になるわけではないので、顧客に足元を見られやすい。このため、企業にとっては、原価構造を当然のように「見えない化」して、不断の努力によって単価を上げていくことが重要なのである。

「高付加価値化」「ブランディング」などのマーケティング手法は、突き詰めればこの「見えない化」による価格の最大化である。サービス業に限らず、どの企業も等しくこの方向性を目指しているし、またそうあるべきである。

 顧客側としては、マーケティングに踊らされるのではなく、その適正価格を冷静に考えなければならない。その上で、商品やサービスを購入することは、個人の判断であり自由である。

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「やりがい搾取」は必ずしも「悪」ではない

 また、従業員をいかに安く用いるのか、という視点も、経営者には欠かせない。「搾取」と否定的に言ってしまえばそれまでだが、私はむしろこの「搾取」に肯定的な見方をしている。何度も繰り返すが、利潤を確保することは企業の使命である。そもそも、従業員からすれば、給与がそこで働く唯一の目的だとは限らない。問われるべきは、給与以外のベネフィットを与える仕組みが企業にあるかどうかである。

 ひとつには、経営者の人格が重要である。人格というと高尚に聞こえるかもしれないが、これは第2章の〈「一攫千金教」のためのM&A入門〉で述べた「人たらし」のスキルのことである。「この社長についていきたい」というような気持ちを従業員に起こさせることができれば、必ずしも従業員を金銭だけで惹きつける必要はない。