継母から日常的になじられ、実の父親からレイプされ、地獄のような思春期を過ごしたという滝川沙織さん(53歳・仮名)。24歳の時に知り合った男性と結婚して、女の子と男の子を出産したが、二人には視覚障害があることがわかったという。

 ここでは、ノンフィクション『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)より一部を抜粋して紹介する。当時、3歳の娘に暴力を振るってしまったと告白する沙織さん。その内心では一体何が起きていたのだろうか。(全4回の3回目/続きを読む)

写真はイメージ ©AFLO

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怒りの衝動

 生後間もない海くんと、3歳の夢ちゃんとの生活が始まりました。

 夢ちゃんは3歳で幼稚園に入ったのですが、幼稚園を嫌がって、連れて行っても大泣きして、家に一緒に帰ることがほとんどでした。滝川に送りを頼んでも、夢ちゃんの大泣きにお手上げで、家に連れて帰ってくるのです。父親でありながら、何の役にも立たないので、しょうがなく私が連れて行こうとすると、夢ちゃんはもはや頑として玄関から動きません。一度決めたら、絶対に変えないという、頑固な面が夢ちゃんにはありました。

 例えば、こんなことがありました。私と滝川が風邪をひいて熱があった日に、夢ちゃんは「スーパーに行きたい」と言い出しました。私たちが「具合が悪いから、今日はやめておこうね」といくら言っても、「絶対にスーパーに行く」と夢ちゃんは頑として譲りません。結局、滝川が連れていくことで落ち着きました。こういう融通の利かなさ、頑なさがあり、本当に手を焼かせる子だったのです。癇癪を起こせば、何時間でも喚き散らします。そうやって、最終的には自分の思う通りに、大人を動かしてしまうところが夢ちゃんにはありました。

 夢ちゃんと比べて、海くんの場合、夜中は数回起きるだけで、とても育てやすい子でした。

 私は心から、海くんを可愛いと思えました。そうであっても、海くんへの夜中の授乳で寝不足ではあるのですから、昼間は海くんと一緒に、私は寝ておきたいわけです。ところが、幼稚園に行かずに家にいる夢ちゃんが、私を寝かせてくれません。

「ねえねえ、遊ぼう」

「夢ちゃん、お願いだから、ママを寝かせて」

 とにかく、私の睡眠を邪魔してくるのです。

「ねえ、夢ちゃんも一緒に寝ようよ」

 何度、言っても、夢ちゃんは私を起こしにきて寝かせません。だから、殴るのです。

 何、この子! あたしを苦しませるために、生まれてきたの?

 一度、怒りが込み上げて手が出ると、怒りの衝動のまま、殴る蹴るが止まりません。