怒りのスイッチが入る時

 夢ちゃんを一番殴っていたのは、3歳とか4歳の頃です。

 虐待している時は、私、悪魔です。頭が沸騰しているし、殺意すら湧いています。「あー、このまま殺す」って思ってしまいます。だから一度、児童相談所に電話をかけたのです。

「今、半殺しにしかけています」

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 その後、児相が家庭訪問に来ることはなかったのですが、電話した時の私って、うつで、身体がまいっていたので、あそこで終わっていたんだと思います。半殺しの手前というのは首を絞めた後で、夢ちゃんは床に転がっていました。

 口で言ってわからないのだから、叩いてもいいだろうって思っていました。躾の一環だからって。今、思えば、私、自分の父親と同じことをしていたんです。もちろん、この時はそのことには気づいていませんでした。

 一旦、暴力が始まってしまうと、止まらなくなってしまうのです。夢ちゃんが何か反抗的なことを言っただけで、ぎゃーっと狂ったようになって首を絞めるんです。

 夢ちゃんはこだわりが強く、癇癪を起こすと2時間でも3時間でも、足で床をパタパタ踏み鳴らし、喚き続けることがよくありました。

 怒りのスイッチが入るのは、こんな時です。

「おまえ、舐めてんのか!」

 こうなったら興奮状態ですから、一切、何も考えていません。蹴っている時は、ただむかついているだけです。

「やめてー! 蹴らないでー! なんで、蹴るのよー」

 夢ちゃんがこう聞いてきたら、私は当たり前に答えます。

「おまえが嫌いだから、だよ! 理由を聞くから言ってやる。おまえが嫌いなんだよー!」

 冷静になって考えてみたら、夢ちゃんにとって良くないことだとわかるのですが、スイッチは確実に入ります。このままこうしていたら、いつか気が狂うのか。紙一重のところにいると思っていました。

 一方で、夢ちゃんを保育園に預けて働きに行くことは到底、考えることはできませんでした。

 私自身、性被害に遭っている経験から、そもそも人を信じていませんので、夢ちゃんを人に預けること自体、あり得ないことでした。住んでいるマンションの1階に託児所があったのですが、私はいつも窓からジーッとその様子を見ていました。どこに死角があるかわからない、そこで園児が危険な目に遭うかもしれない。そう思えて仕方がありませんでした。だから、自分が夢ちゃんを叩いていても、人に預けるのではなく、自分で見ている方がマシだと思っていたのです。