「通報レベルの所業」
蹴られて転がった夢ちゃんは、ぎゃーっと泣いています。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「謝らなくていい! うるさーい!」
手を出すのはまずいと思い、我慢する時もありました。そんな時は、壁を思いっきり蹴ってやります。それでも、やっぱり手が出てしまうのです。いつも、そうでした。我慢するより、思いっきり殴ってしまうのが常なのです。
でも、一旦、怒りの衝動が収まれば、罪悪感しかありません。
夢ちゃんが体操教室に行きたいというので連れて行ったことがあるのですが、全く何もしようとしないので、大勢の人がいる前で私はキレました。
夢ちゃんの頬を、平手でぱちーんと引っ叩き、怒鳴りつけました。家で、いつもやっていることです。
「鬱陶しい! もう、アンタがやりたいって言ったんでしょ! なんで、やらないのよー!」
この時の夢ちゃんは泣き叫ぶこともなく、じっと下を向いていました。
通報レベルの所業でした。
「おまえが嫌いだから、だよ!」
幼稚園に行かないので、私は夢ちゃんを公民館や児童館などに頻繁に連れて行きました。読み聞かせや遊びの時、夢ちゃんは私の膝の上から離れません。みんなが帰ってから、のそのそと膝から降りていくのです。遊びが、他の子と違うなーと感じていました。
そこで、病院の発達外来に連れて行ってみたのです。
「先生、この子、本当に発達障害ですか?」
「テストをしましたが、その要素はあります。ただ、あくまでグレーです。今のその年齢だったら、『楽しい』って、幼稚園に行っていますよね。幼稚園に行っていないし、楽しくないって言っているのでしょう?」
この言葉に、ああ、そうなのかと改めて思いました。ここで初めて、発達障害という気づきを得たわけですが、そのことが私の夢ちゃんへの怒りを鎮めることにはつながりませんでした。
