生まれてすぐ山奥の寺に兄とともに預けられ、両親は死んだと伝えられていた滝川沙織さん(53歳・仮名)。沙織さんが小学校を卒業する頃に父親が突然現れ、父、父の再婚相手、兄との新しい生活が始まったという。それは、真の地獄の始まりでもあった。
ここでは、ノンフィクション『母と娘。それでも生きることにした』(集英社インターナショナル)より一部を抜粋して紹介する。兄が就職して家を出た後、継母も出ていってしまい、父と2人きりの生活を送らざるを得なかった沙織さん。高校生だった頃の地獄のような日々を今、苦しみながら語った。(全4回の2回目/続きを読む)
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父親の猫なで声
継母が家を出たことによって、父親と2人だけの生活が始まりました。高校2年の夏休みだったと思います。
「おまえは、ごはんを作ろうと思わないのかー!」
父親が怒り出すので、渡された1000円で料理本を買い、肉じゃがを作りました。
「おまえ、これは、食堂の切り方と同じだろがー!」
突然、食卓で父親が激昂し、目を剥いて怒鳴られましたが、言われたことの意味が全くわかりません。「え? 何のこと?」と、キョトンとする暇もあったのかなかったのか。
「おまえは、何でも口答えしてー!」
父親は漬物が乗っていた皿をバーンと叩き割り、私はいきなり首根っこを掴まれました。
テーブルを挟んでいるのに、体が持ち上がるほどの力でした。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
首が絞まる苦しさを堪え、私は何度も謝りました。そうするしか、ないのだから。どうやら茄子の漬物の切り方が気に食わなかったみたいで、私は半分に切って半月切りにしたのですが、正解は丸のまま切るのが正しかったようです。どこに地雷が潜んでいるか、ビクビクする生活に変わりはありませんでした。
いきなり激昂する一方、ある時は突然、猫なで声で私に寄ってくるのです。
「ちゃーおちゃん」
気持ちが悪くて仕方がなく、そのうちに通りすがりに私の乳首とか身体を触ってくるようになりました。それも、つーんと手を出してきて、「え?」って思った時には触られているので、手で払う暇もないのです。やがて、お風呂を覗いてくるようになりました。
私は父親を警戒して、父親が帰ってくる前にお風呂を済ますようにしました。ただ、父親はちゃんと仕事をしていたわけではないので、いつ帰ってくるかわからず、気が休まることがありません。
