20代で死ぬとこの時に決めた

 なんで、「やめて!」って、叫べなかったんだろう。

「ふざけんな!」って、すごめばよかった。オマエの頭、どーなってんの! 謝れ! 自分のしてること、おかしいと思わないか! 「頭おかしい」って、言ってやればよかった。

 扉の鈴は捨てました。だってあれは、家に他の誰かがいるなら、効果があるものだから。2人しかいないのだから、意味がない。窓から逃げようとしたけれど、窓を開けたら格子がついているので出られない。でも、窓を開けていれば、「助けて!」って言うことはできるから、いつも窓を開けていました。

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 誰にも、「助けて」って言えなかった。変な天秤ばかり、頭の中をぐるぐるする。強姦なら一回で終わる。でも父親からの性的虐待は、終わらない。せめて、これをしているのが、血のつながりのない継父だったらって、なんて天秤? でも、実の父親だしって、沙織、オマエも頭おかしいぞ。

 継母にも、ちくってやればよかった。あんたら2人、頭おかしいぞ!って。

 誰かに打ち明けられていたら……。今になって思う。あの時の私は、精神科に入院するべきだった、と。

 父親にいろいろされている時に、感情をなくそうと思った瞬間がありました。

 あっ、だから、私、どれが本当の自分か、わからなくなったんだ。

 私の人生の目標は、20代で死ぬことなのだと、この時に決めました。

 その時からずっと、死ぬことだけを考えて生きてきたんです。いろいろな死に方を、高校時代は妄想しました。飛び降りは、人に迷惑をかける。首吊りも。じゃあ、冷たい海に飛び込む。

 ああ、死にたい人のための穴が、そこにあればいいのに……。そこに落ちれば、誰にも迷惑をかけないで死ねる穴が。

 父親からの被害を防ぐためには、継母に戻ってもらうしかないと思い、大嫌いな継母に、私は「どうか、家に戻ってください」とお願いしました。

 継母が家を出ていたのは2か月ほどでしたが、その2か月で、私の心は凍りつき、完全に死にました。

 そして家を出るためだけに、好きでもない男と結婚しました。継母に「あんた、父親と同じ男、選んでるよ」と言われた高校の同級生が、私の夫となるのです。