天井の木目を眺めていた

 お風呂から上がり、脱衣所にいる時に父親が帰ってきました。

「ちゃーおちゃんの裸、覗いちゃおうかな」

 そう言って、ドアを開けて脱衣所に入ってきたのです。私は身体を拭いていたので真っ裸で、父親をバーンと突き飛ばしてドアを閉めて、思いっきり叫んだのを覚えています。

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「何するのー! やめてよ!」

 叫びながら、震えていました。兄はとっくに家を出て、父と家に2人だけ。私は17歳で、父親は39歳ぐらい。

 私は警戒して、部屋の扉に大きな鈴をつけました。誰かが扉を開けたら、わかるようにと。

 父親はちょいちょい触ったり、覗いたりするようになりましたが、高校に行かせてもらっているのは父親のおかげだし、気持ちが悪いけれど、何とか我慢していました。

 機嫌がよくて、私に接近してくる時は、赤ちゃん言葉になるんです。あのケダモノが、赤ちゃん言葉を使うんです。そういえば、継母に暴力を振るった後、やけに優しくなる時があり、その時も父親は赤ちゃん言葉を使っていました。

 蒸し暑い夜、扉にかけていた鈴が鳴りました。

「ちゃーおちゃんに、チューしたことないから、チューしよう」

 そのまま、ベッドに押し倒されました。

 唇を押しつけてきて、なんで、私、父親とキスしてる? 

 ヤニ臭い。キモイキモイキモイ。吐く吐く吐く。無理無理無理。

 そこからは、記憶がありません。覚えていない。もう硬直して、あとは天井しか見ていませんでした。動けない。どうしてなんだろうと思うぐらい、動けない、叫べない。お風呂の時みたいに、「やめてー!」って叫べればよかったのに……。

 視界にあるのは、板張りの天井だけ。うちって板張りの天井なんだ……。電気のアダプターもある。天井にも、いろんなパーツがあるんだ……。なんで、私、こんなこと、思っているんだろう。

写真はイメージ ©AFLO

 ただ、天井を見ていた。

 あとは、何も知らない。横たわって天井を見ている私だけが、そこにいる。私の身体は、どこ? 私の身体、どこに行っちゃったんだろう。心もどこ? 心はもう、見つからない? なんで? 身体がとっても重たいの。ガチガチに硬直してる。私、どうなってるの? 怖い、怖い、怖いよー。恐怖で、身体がガクガクしてる。ガックンガックンって、震えが止まらない。

 思い出したくもない、実家の天井の木目。あの時の私は、自分の精神が崩壊しないよう、天井の木目を眺めていたのかもしれません。