あれから沙織さんはずっと繰り返されるフラッシュバックやトラウマに、ひたすら翻弄されるがままに生きてきた。フラッシュバックのたびに甦る恐怖、そして怒りにがんじがらめにされた人生。何度も、心が壊れそうになった。
高校時代、沙織さんは最大のフラッシュバックを経験した。それは、彼との初体験の時だった。
地獄から抜け出す術
向こうが、あたしの家に勝手にやってきて。だって、昼間、両親がいないから。その時に、最後まで行ったんです。もう、ぼうっとして。そしたら、お腹に出されたんです。私、何が起きているか、わかんない。
でも、そのぬるい感触が、その時と一緒だったんです。
小学6年の夏、ススキが踏み倒された野原、軽トラック、そしてナイフ。最初は、彼氏が尿を漏らしたと思ったんです。
「おまえ、処女じゃないだろう。痛がりもしないし、出血もしないし、嘘ばっかりだ」
訳がわからないことを一方的に言われて、ものすごく、こいつが嫌になって、その時、「あっ」って甦ったんです。あの時、何をされたのかが。出されて、塗りつけられたんだ……。
バーッて逃げていった。走って、走って、私、あの時、短パン穿いてた。あの時の、あの恐怖……。全てが甦った。逃げないと、逃げないと……。
だけど、私は結局、この最低の男と結婚するのです。「初めての人と結婚すべき」という古臭い考えもありましたが、家という地獄から抜け出すための唯一の手段が、この男との結婚だったからです。自分を大事にしてくれる男ではないと内心、わかっていました。
では、死ぬことしか念じていない19歳の私に、地獄から抜け出す術が他にあったでしょうか。
手っ取り早いなら、私は何でもよかったのです。