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 このシーンには、スズ子の少女時代のエピソードが「前フリ」として効いている。第1話に溌剌と登場したスズ子(少女時代:澤井梨丘)は「元気で猪突猛進でおせっかい」という、一見「よくある朝ドラのヒロインらしい」キャラクターに思えた。

 しかしスズ子が、幼なじみのタイ子(少女時代:清水胡桃)が想いを寄せる同級生男子に告白するよう仕向け、タイ子の気持ちも考えず「前向き」の押し売りをしようとすれば、母のツヤ(水川あさみ)がたしなめる。自分と他人は違う人間であり、人には人の気持ちがあり、それぞれの事情があり、人生があるのだと教える。それがこの朝ドラの「一味違う」ところだ。

主人公・スズ子を演じる俳優の趣里 ©文藝春秋

「おせっかい」の成長

 家が貧しい和希(少女時代:木村湖音)が昼休みに干し芋をかじっているのを見たスズ子は、ツヤに弁当を2つせがんで、和希にひとつあげようとする。しかしその行為が彼女のプライドを傷つけてしまった。そしてスズ子は、「またやってもうた」と反省する。未熟で不完全な主人公が、3歩進んで2歩下がりながら、少しずつ心の成長を遂げていく姿が描かれた。

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 スズ子は、映画の脚本を書いて何度応募しても採用されない父・梅吉(柳葉敏郎)の「続けること」の苦しみをずっと間近で見てきた。そして、「才能がないのに歌と踊りを続ける意味」を自問し続けた。

 こうした段階を踏んでいるから、スズ子が、USKを辞めたいという和希の決断を受け止めるという流れがすんなりと入ってくる。「どうにもならんことって、ありますねん」という言葉に説得力がある。スズ子は相変わらず「おせっかい」ではあるけれど、他者の気持ちに耳を傾けることのできる「おせっかい」へと成長したのだと腑に落ちる。

「『自』と『他』の境界線」を引く

 登場人物どうし、そして作者と登場人物の「自他の境界線」をきちんと引くこと。他者への敬意を忘れないこと。一方的な「考えの押し付け」ではなく、「対話」すること。「多様性を重んじる」という現代社会の命題に沿うならば、朝ドラの作劇においてこれらは必須要件と言える。ここをきちんと意識して作られた朝ドラは信頼できる。