DVやストーカー被害など、特別な事情を抱えた人々の引越しを手伝う業者「夜逃げ屋」。その「夜逃げ屋」を題材にしたコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』(KADOKAWA)が話題を呼んでいる。作者の宮野シンイチさんは、漫画家として活動するかたわら、夜逃げ専門引っ越し業者「夜逃げ屋TSC」の仕事に従事し、働く人の視点から、夜逃げをする人々の苦しみや葛藤を描いている。
そんな宮野さんに、夜逃げ屋で働くことになったきっかけや、実際に携わった仕事の内容などについて、話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)
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夜逃げの現場を取材し、そのまま働くことに
――まずは、漫画家の宮野さんが「夜逃げ屋」で働くことになった経緯を教えてください。
宮野シンイチさん(以下、宮野) 2015年頃、「夜逃げ屋」を特集した番組をたまたま見て。夫のDVに悩んでいる女性が、夫の留守中に子連れで夜逃げをする、というスリリングな内容でした。
その中でも特に印象に残ったのが、夜逃げ屋を取り仕切る女性社長の姿。心身ともに負担の大きそうな仕事を、なぜ率先してやっているんだろう。どんな人なんだろう。漫画家としての好奇心が湧いて、その社長に取材を申し込んだんです。
そしたら、夜逃げの現場に同行することになって、そのまま働くことになった、という経緯ですね。社長は人手が増えて助かる、僕は漫画のネタが増えて嬉しい。「一石二鳥だろ!」と社長に言われました(笑)。
夜逃げ屋のメンバーは夜逃げ経験者が多い
――漫画では、社長が夜逃げ屋を始めた理由も描かれていました。
宮野 社長自身が元夫から毎日DVを受けていて、夜逃げをきっかけに人生を立て直したんです。社長の鼻には傷跡があるのですが、それが元夫に頭突きされてできたと聞いたときは驚きました。
――社長自身が夜逃げに救われたから、夜逃げ屋を始めたのですね。
宮野 僕のいる夜逃げ屋は、社長以外のメンバーも夜逃げ経験者が多いんですよ。なかには、社長に夜逃げを手伝ってもらった、という人もいます。おそらくこれも、「夜逃げ経験者なら、依頼者の気持ちに寄り添えるはず」という社長の考えなんじゃないかな、と。